千秋とポチの気配が消えた。それと同時に、さっき千秋が座ってたベンチに腰掛けて大きく息を吐く。

「話すことなんかねえよ」

コンビニで会ったときの由香の申し訳なさそうな顔を思い出して舌打ちをした。
行く行かないは俺の自由。
千秋に言われた言葉が頭の中で反復する。

もしも明日会いに行ったら、由香と別れたときから心に残っているわだかまりがなくなるだろうか。
もしも会いに行かなかったらもう一生由香とは会わない気がする。
行きたい気持ちと行きたくない気持ちがごちゃごちゃになって、もう考えるのも面倒臭い。

俺の曇った気持ちとは裏腹に憎たらしいくらいに澄んだ夜空を見上げた。










「あ、あの!…ちっ、千秋さん」

肩を組まれたままずるずると無理矢理歩かされていたけど、流石に辛くなってきて遠慮がちに声を掛けてみる。

「あ?俺、お前に名前教えたっけか?」
「すみません。鳴海さんがいつも呼んでるんで」
「あぁ、そう」

ようやく歩みを止めてくれた千秋さん。そんなつもりじゃないんだろうけど、喋り方と表情が凄んで見える。

多分だけど、千秋さんは俺が鳴海さんに付き纏っているのを快く思ってないと思う。多分ってか、絶対。
そんな千秋さんと二人っきりってのはどうも気まずい。

「あの、」

もともと静かな雰囲気だったりが苦手な俺は、この沈黙に耐えられなくなって口を開いた。
千秋さんは目だけをこっちに向けて無言で返事をする。

「鳴海さんと、その、由香さんの間に何があったんですか?」

いくら馬鹿な俺でも、鳴海さんと由香さんの間に昔何かあったんだろうってことぐらいは察しがつく。
人気のない道端で立ち止まって千秋さんに尋ねると、大きな溜息を吐かれた。



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