そそくさと会計を済ませてから無言で帰路に着く。
片手でコンビニ袋を持って、もう片方の手はポケットに突っ込んだままさっき由香から受け取ったメモを握り締める。

「ごめんな。さっき気まずかったろ」

一歩後ろをついて歩いていたポチの方に振り返って謝れば、気にしないで下さいと無理な笑顔を浮かべていた。

普通だったら、さっきの人は誰だとか、どんな関係だったんだとか質問してくる所なんだろうけど、憎たらしいことにコイツは俺がそういうことを聞かれたくないのがわかるらしい。
気になっているのか、心なしかそわそわしているけど、言う気もない。



まさかこんなふうに由香と再会するなんて思わなかった。というか、もう一生会わないんじゃないかと思ってた。

「…ごめんね、幸福」

由香に最後にそう言われたときのことを思い出してしまって頭を左右に振る。
苦しそうな顔で振り絞るように言ったその台詞が俺には逆に辛かった。


「鳴海さん?」
「え?あ、ごめん…なに?」
「いえ。なんかぼーっとしてたので、具合悪いのかなって」

顔を覗き込んで背中に手を当ててくれるポチ。
今までは全く意識してなかったけど、誰にでも優しかったり子供みたいな反応をしたりする所が由香に似ている気がする。
一週間程度だけど付き合ってみて何故だかもやもやとしていたのは、由香と重ねていたからなのかもしれないなと気付いて自嘲気味に笑った。

「悪い…。考え事してた」

今の謝罪が考え事してたことに対してなのか、由香と重ねていたことへの罪悪感からなのか自分でもわからない。
とりあえず今は何も考えたくなくなって、足早にポチの自宅へと向かう。

普段は強引だったりする癖に、人の気持ちを察するのことに長けているのか、無言のまま同じように足早に歩いてくれる。
頭の中がぐちゃぐちゃと混乱している中で、沈黙が続くこの状況が心地好かった。



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