「食いたいもんあったらカゴに入れていいから」

カゴを片手に持ってポチにそう言う。

ゆっくり商品を物色していると、何故かこのタイミングで今日一日の疲れがどっと押し寄せてきた。
それと同時にすごくお腹が空いてきて、ポチが何かを持ってくる前にサラダやら弁当やらおつまみ、果てはビールまでもどんどんカゴへと放り込む。

「うわ、結構食べますねー」
「お前はそんなんで足りんのかよ…。ほら、それ入れて」

近寄ってきてカゴの中を見て声をあげたポチは、意外にも大して量の入ってない弁当を持っている。
その弁当を取り上げてカゴへと入れると、ひょいとカゴを奪われた。

「カゴ持ちますよ」
「あぁ……ありがと」

今までの俺だったら、こんな素直にお礼が言えなかった気がする。
ポチがあまりにもスマートに持ってくれたもんだから、ごちゃごちゃと考えないでお礼の言葉が出た。


「…ユキ?」

ポチと二人並んでアルコール類を選んでいたら、不意に懐かしい呼び方で名前を呼ばれて勢いよく振り向く。

「やっぱり。なんか見覚えのある後ろ姿だと思ったの」

申し訳なさそうに眉を下げて笑顔を浮かべてそこに立っていたのは、昔婚約していた由香だった。
綺麗な黒髪に、ぱっちりとしたでかい目。清楚な印象を与えるロングスカートを着こなしていて、相変わらず可愛らしい。

「あ…久しぶり、だな」
「うん、そうだね。あ、ユキのお友達?」
「え?あ、あぁ…まぁ」

ポチに目線を向けて小首を傾げる由香に、居心地が悪そうに会釈をした。

「なんか、ユキがこういう子といるなんて変な感じ」

変な感じもするだろう。
ポチのように派手な見た目をした奴は苦手で、なるべく関わらないように生きてきたんだから。

クスクスと小さく笑う由香は、俺と同い年だというのに幼く見える。

「由香ごめん。俺ら、そろそろ行くわ」

これ以上由香と話し込んでもポチに気を遣わせてしまうし、何よりいい気はしないだろう。
第一、俺も上手く会話を出来る気がしない。

「あ!ユキ…また、話させて?これ、私のアドレスと番号だから」

鞄からメモ帳とペンを取り出した由香が、急いでアドレスと電話番号を書いて渡してきて、俺はそれを無言で受け取った。



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