俺は先にあがってますね、と、そう言い残してポチが浴室から出て数分で俺も風呂をあがる。
洗面所に用意してあったおろしたての下着と借りたスウェットに身を包んでみると、少しだけサイズがでかかった。
「あ、おかえりなさい」
バスタオルで頭を拭きながら部屋へと戻れば、テレビを見ていたポチが嬉しそうにこっちを向く。
「……ただいま」
「あ、俺が髪拭いてあげますよ」
「いやっ、いいよ」
「遠慮しないでください。はい、座って座って」
なんか、めっきりこいつのペースに乗せられている気がする。
心なしかウキウキして見えるポチが近付いて来たかと思えば、手に持っていたバスタオルを簡単に奪い取られてソファーに座っていたポチの脚の間に無理矢理座らせられた。
「きちんと乾かさないと風邪引いちゃいますよ」
「…お前、なんかテンション高くねぇ?」
髪の毛を優しく丁寧に拭かれて気持ちいいような擽ったいような、よくわからない感覚を味わいながら疑問を口にする。
「え?いやっ、あー…。俺、テンション高いですかね?」
「わかんないけど…なんか高い気ィする」
「かもしんないっス。鳴海さんにシャンプーした上に、拭いてあげてるんですもん!」
「…なんでそれがテンション高い理由になんだよ」
興奮気味に話すポチを一瞥してから呆れたように聞くと、髪の毛を拭く手を止めて顔を覗き込んできた。
「好きな人だからです。…美容師志望の俺が好きな人相手にシャンプーしたんですから、そりゃテンションも上がりますよ」
締まりなく笑った顔を向けられて思わず目を逸らす。
こいつには羞恥心ってものがないのか…男の俺を好きな人だと平然と言ってのけるポチに、俺の方が恥ずかしくて仕方ない。
「まぁ、鳴海さんが泊まるってことに緊張してるだけなんですけどね」
髪の毛を拭く手が動きを再開させたと同時に、さっきとは打って変わって不安げに小さく呟く。
「ははっ」
「わ、笑わないで下さいよ!マジで緊張してるんですから」
自分だけが緊張してると思ってたから、ポチのまさかの発言に嬉しくなってしまった。
俺に笑われて焦ったのか、唇を尖らせている姿が何故かすごく可愛く感じて、
「かわいい」
「鳴海さ…ン、」
やってしまった。
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