「…お前、よく素面でそんなこと言えんな」
「はい」

満面の笑みを浮かべたポチがなんだか憎たらしくて小さく舌打ちをする。

「鳴海さん。今日はもう何もしませんから、泊まってって下さい」
「今日はってなんだよ、今日はって」
「絶対に手ェ出しません」

そういう風にハッキリと言われてしまうと非常にいたたまれない。
真剣な眼差しを向けてくるポチから目を逸らして部屋の壁に掛けてあった時計に目をやると、まだまだ終電の時間というには程遠い。むしろ、この時間は帰宅ラッシュだな。

「わかったよ。満員電車なんて乗りたくねぇし…しょうがなくだからな」

捻くれたようにしか言えない自分に嫌気がさすけど、そんなことお構いなしなポチは嬉しそうにはにかんでギュッと抱き着いてくる。

「何もしないんじゃなかったのかよ」
「抱き着くのはセーフです」
「なんでお前が勝手にルール作ってんだよ」

自信満々に言い張るのがなんだか面白くて顔が綻ぶけれど、勝手にルールを決められるのはいただけないので、抱き着いてきたポチの首根っこを掴んで引き剥がす。

「とりあえず、一刻も早く風呂と下着を貸せ」

引き剥がされたのが不満なのか唇を尖らせて拗ねたようにしてみせるポチに対して、精液のついてしまった下着を精液が乾く前に洗いたくて必死な俺は、命令口調になって訴える。

「あ。じゃあ、一緒にお風呂入りましょうよ」

何いいこと思い付いたみたいな顔してんだよ。

「ざけんな」
「俺、シャンプー上手いんですよ。鳴海さんの髪の毛洗わせて下さい」
「嫌だよ…なんか嘘っぽい」

シャンプーするときの動作なのかわからないが、手を小さく左右に動かしてアピールしてくる姿がなんとも胡散臭い気がする。

「マジで俺のシャンプー気持ち良いですって!……それじゃあ、こうしましょう」

眉間に皺を寄せて黙ってると、また何か思い付いたのか、ポチが笑顔になる。

「一緒に入らせてくれなきゃ、お風呂も下着も貸しません」

とんだ鬼畜発言に、俺に選択肢はない。



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