「あ、えと…やっぱ、俺のせいですかね」
焦ったように後頭部を掻き乱しながら千秋の出て行った店の扉を見つめるポチ。
その顔は不安そうに眉が垂れ下がっていた。
「気にすんな。千秋の気紛れは今に始まったことじゃねぇから」
第一、俺だって千秋が急に帰ってしまったことに混乱しているというのに、それをポチのせいに出来る筈もない。
「なら、いいですけど」
未だ心配そうに眉根を寄せて呟く。そのポチの表情に幸福は苦笑いをする。
「とりあえず気にすんな」
「はい。…あ、そうだ、鳴海さん!俺もうすぐで上がれるんで、良かったら帰りに俺ン家寄って行きませんか?」
唐突にそう切り出された幸福は何も返せずに暫しの沈黙が続く。
先程の眉を垂れ下げていたときとは打って変わって、目尻を下げながら幸福の返答を待つ。
そんなポチの姿に、バイトをサボっていていいのかと言いたい気もするが、見る限り店の中に客は自分しかいないようだった。
「別に行きたくない」
悩んだ末に口から出たのは捻くれたようなそんな台詞。
「ね、行きましょう?…来て下さい」
俺は行きたくないと答えたというのに、爽やかな笑顔で言い直すポチ。
爽やかというよりかは、意地の悪いような顔のような気もするけど。
「あとどんくらいで終わるんだよ」
ポチから顔を背けながらポケットに手を突っ込んでぶっきらぼうに呟く。
チラリと提案してきた奴を盗み見てみると、目に見えて喜んでいるのがわかった。
「店長に言って、今日は上がらせて貰ってきます!」
「いや、それはまずいんじゃ」
「鳴海さんはここで待ってて下さい」
大声でそう言い残すと、ポチは店内だというのにも関わらずダッシュでレジがある方へと行ってしまった。
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