「うん…。でも、大丈夫だから」
怒っているのかそうでないのか…。
心配そうに見てくる千秋の目をしっかり見据えてそう答えた。そんな俺の態度に、呆れたように溜息を吐き出している。
一週間前よりも少し量の増えた髪の毛を撫で下ろすと、無邪気に笑うアイツの顔が頭を過ぎる。
頭に浮かんだそいつを振り払うかのように、ブンブンと首を左右へと動かした。
「なんだ?どうした?」
そんな俺の行動にビックリしたのか、またしても心配そうな表情で顔を覗き込まれる。
千秋の問いに対しても首を左右に振って、なんでもない、と、そう一言。
それから首の辺りに右手を添えて小さく呟く。
「…雰囲気変えよ」
「はぁ?」
「九条に会ってから千秋、機嫌悪いし」
それに関しては否定しないらしい。
ばつが悪そうに俺と目を合わせようとしない。
「悪かったな」
「え?…うわっ」
少しきつい口調で謝りながら、照れ隠しなのか幸福の髪の毛をぐしゃぐしゃと乱雑に掻き乱す。
ぐしゃぐしゃに乱れてしまった髪を手櫛で適当に整える幸福を余所に、千秋はポケットに手を突っ込んで人混みを歩き出した。
その様子に慌てて幸福も後を歩く。
「置いてくなよ」
唇を尖らせて文句を言えば突き刺さる千秋の鋭い視線。
無駄に目付きが悪いせいか、たとえ高校の頃からの付き合いだとしても少々威圧されてしまう。
「何ビビってんだよ、バカ」
「別にビビってねぇよ。つーか、どこ行くの?」
「気分転換に服でも見ようと思って」
そう言って指差した方向には、いかにも千秋が好んで着そうなアメリカンカジュアルの服屋があった。
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