「…っはい!」
気合いの入った声を出したポチは、満足げに俺の髪の毛を指で丁寧に揃える。
「鳴海さん。終わりましたよ」
そう声を掛けられて、まじまじと鏡に映る自分を見つめた。
「ちょっと短くしてシャギー入れただけだけど、印象は結構変わるでしょ?」
少しだけ軽くなった頭に違和感を覚えつつも、さっきまでの自分と比べると、なんだか垢抜けた気がする。
薄くなった髪の毛を指で軽く梳いてみた。
「お前、すごいな」
素直にそう告げると、ポチは顔を真っ赤にして口を隠す。
「…いやっ。つか、すみません。いきなり…髪切らせて貰っちゃって」
「なんだよ急に」
いきなり弱気になったポチに、思わず笑みが零れた。
なんか、こんなふうに笑うなんて久しぶり。
千秋と居て笑うこともあるけど、自然と笑いが溢れてくるのは本当に久しぶりだった。
「あのっ、鳴海さん!」
「ん?」
「えと…髪、切らせて貰ったけど…また、連絡してもいいですか!?」
そういえばポチと番号を交換するきっかけになったのは、ポチが俺の髪を切りたいからって理由だったからだ。
目的は達成したんだし、迷惑だったんだから、今の申し出を受ける義理はない。
その筈なのに…
なんで首を縦に振ったんだろう。
「あっ、ありがとうございます!」
「うわっ!」
相変わらずガキ臭い笑顔を浮かべたポチが、いきなり抱き着く。
男に抱き着かれるなんて溜まったもんじゃない!
力一杯抱き締めてくるポチの胸を押し返していると、部屋の扉が勢いよく開いた。
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