周りに脇目も振らず鼻歌まじりに目的地へと向かう。
人混みの中、手首を掴まれたままポチの後ろをついて行くことしかできない俺は、抵抗もせずに黙って歩く。

「なぁ…どこ向かってんの?」

いい加減痺れを切らして質問すると、満面の笑みを浮かべて誤魔化されてしまった。

「鳴海さん、こっち」

ポチが指を差した方向というのは、普段は入ろうとも思わない路地。
当たり前のように路地を通ってそこを抜けると、先程の人混みとは打って変わって人もまばらの住宅街へと出た。

もうどこへ行こうとしているのかわからない俺は、頭にたくさんのハテナマークを浮かべながらも後をついて行くしかなかった。

「沢!」
「あ、正臣」

数メートル離れた場所に立っている男が軽く片手を上げて目の前の男の名前を呼ぶ。
それに答えるようにポチもその男の名前を呼んで、俺の手を引いたまま小走りで正臣という男に近づいた。

「ふーん…あんたが鳴海さんね」

無遠慮に人を上から下へ、下から上へと見るそいつ。
思わず眉根を寄せると、それに気付いたのか俺の顔を見て微笑んできた。

「初めまして。鳴海さん」
「あ…初め、まして」
「あ、こいつ俺の友達の正臣です」

端整な顔で微笑まれると、男相手でもなんだか照れてしまう。
ポチが紹介してきた正臣という男は、手を差し出して改めて自分で自己紹介をしてくる。

「沢の友達の九条正臣です」
「鳴海、幸福です」

その差し出された手を素直に握った。



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