「あ、それ美味そう」
約束通り飯を食う俺と千秋。
店員が運んで来た俺のハンバーグを指差す千秋は、目で催促している。
熱々の鉄板の上でジュージューと音を立てているハンバーグを一口サイズに切ってデミグラスソースを絡めた。
「ほら」
「あーん」
フォークに刺した一口大のハンバーグを千秋の口に放り込んでやった。
相当熱いらしく、息を吐き出しながら頬張る。
「自分で頼んだの食えよ」
そう文句を言ってから、俺も自分の口にハンバーグを放り込む。千秋はというと、自分が頼んだナポリタンをフォークに絡めて味わっていた。
子供みたいに口の端にソースを付けた千秋に思わず笑ってしまう。
「っぷ!お前、子供かよっ」
自分の口の端を指でトントンと叩いてソースが付いていることを教えてあげる。
テーブルに備え付けられている紙ナプキンを一枚手に取ると、千秋は乱雑に唇を拭った。
「幸福。なんか楽しそう」
「え?」
「あいつ、変な奴だな」
千秋が言ってるあいつってのは、多分、いや、確実にポチのこと。
小さく頷いて肯定する。
俺らが会話をしていると、隣の席に恋人同士なのか、はたまた夫婦なのか…仲の良さそうな男女が座った。
彼女の左手の薬指にはめられている指輪を見ると、なんとも言えない気持ちで胸が一杯になる。
「……………」
「幸福、そろそろ行くか」
「…ごめん」
俺の様子を見た千秋が優しく声を掛けてくれた。
千秋に甘えっぱなしの自分を情けなく感じながら逃げるように店を後にする。
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