「なんか上の空だね?気分悪い?どっかで休もっか」

大丈夫、と、そう返事をしようとしたのも束の間。人の返答も聞かずに、再度手を引いて歩き出す。

コイツは、いつになったら人の話を聞くようになるんだ。








無理矢理歩かされること数十分。手を引いて連れて来られたのは、ラブホテルの前。

「宏樹さん、人混みに酔ったんじゃない?ここで休憩しよ」

優しげな口調でそちらを指差す南。
派手な見た目に反して爽やかに微笑んで見せた南に一瞬だけ心臓が跳ね上がるも、なんだか悔しくて頭を振る。

「どうしたの?なんか、宏樹さん今日は大人しいね」
「普段うるさいみたいに言ってんじゃねぇよ」

喧嘩腰になりながら小さく南の頭を小突くと、耳に付いたたくさんのピアスが目に入った。
今更だけど、なんでこんなチャラチャラした野郎が三十路に片足突っ込んだ男の俺なんかに優しくしてんだよ。

「つーか…ここって男同士で入れるもんなの?」

それ以前に、なんでコイツなんかとラブホなんかに入らなきゃならないんだ。

「大丈夫、大丈夫。ほら、入るよ」
「あ、待てって、ちょっと!」

人の制止も聞かずに、恥ずかしげもなく堂々と中に入っていく南。
男同士でラブホテルに入る罪悪感に苛まれつつ、なんとなく顔が上げられないまま後ろを付いて行く。





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