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「AV男優やんない?」

高校時代にお世話になった先輩が人のバイト先に来て、そう言い残して帰って行った。

俺が金に困っているのをどこで聞き付けたのか、AVに出てくれたらお礼にン十万円出すよ〜なんて軽々しくヘラヘラ笑って言うもんだから余計怪しくて仕方ない。
あまりに美味しい話にその場で答えを出せないでいたら、気が向いたら三日後ここに来てね、と人が良さそうな笑みを浮かべた先輩に名刺とメモ帳に急いで描いた地図を渡された。


そんな出来事が起こってから三日。
名刺とメモを片手に地図に記してあった場所に来てみると、大通りから少し奥に入った所にある、なんとも怪しげな雰囲気を醸し出す事務所のような建物に着いた。
誘ってくれたのがお世話になった先輩だったからというのもあって意を決して来てはみたものの、あまりの怪しさに躊躇する。躊躇っつーか、帰ろうと決心している自分がいる。
ン十万というのは魅力的だが、やっぱり怪しすぎる。そう思って踵を返したときだった。

「あれ?君、もしかして圭さんにスカウトされた新人くんかな?」
「え?あ、いや」
「そんなとこに突っ立ってないで遠慮なく入っていいよ」

爽やかで整った顔立ちのイケメンに背後から声を掛けられた。俺よりも頭一つ分ほどでかい。

確かに世話になった先輩、つまり、こいつの言った圭さんにスカウトはされたけど、新人って言われるともうAVに出ることを了承したようでなんか嫌だ。
否定しようと口を開くけど、まるで聞いていない目の前の爽やかイケメンに無理矢理背中を押されながら、事務所内へと連れ込まれる。


「監督。新人くん連れて来ましたー」
「あのっ…だから、」
「とりあえず撮影場に行こうか」

扉を開けて、中にいた人たち…っていうか監督?に声を掛けたかと思えば、またしても俺の言葉なんか耳に入らないのか、肩を抱いてやや強引に今度は建物の2階へと連れ込まれた。

2階の扉を開ければ、でかいベッドと見慣れない撮影機器の数々が目に入って、如何にもAVの撮影現場ですみたいな雰囲気が漂ってる。

「鉄!やっぱり来てくれたんだ…。つか、なんで凜太郎が一緒なんだよ」

ここに連れ込まれたものの、どうすればいいかわからず戸惑っていたら、スカウトしてきた張本人。圭先輩がいた。

「先輩。俺、まだやるって決めた訳じゃないんですけど。この人に連れ込まれまして…」
「へえー…。君、鉄くんっていうんだ」
「凜太郎。なに無理矢理連れてきてんだよ」

不躾に人の顔をジロジロ見てくる、凜太郎と呼ばれたイケメン。
そんなイケメンを小さく叩いた先輩は、俺に向き直って頭をぽんぽんと撫でてきた。

「鉄。お前のこと連れ込んだのは、一応うちのナンバーワンの湯木凜太郎な」
「んでもって、本日の鉄くんのお相手です」

意味がわからない。俺の相手が凜太郎さん?
撮影ってAVだよな……なんで、俺の相手が凜太郎さんになるんだ。女の子は?
そもそも、まだAVに出るって決めてねぇし。


俺が混乱しているのを余所に、部屋にスタッフと思われる人たちと、さっき監督と呼ばれたおっさんが集まってきていた。

「そろそろ撮影始めても大丈夫かな?」

監督にそう問い掛けられて頭を左右にぶんぶんと振った。
助けを求めるように先輩に目を向ければ、困ったような笑顔を浮かべて俺の肩に手を置く。

「鉄。とりあえず、やれるとこまでやってみろ」
「え!?」
「地図渡されてここまで来たってことは、多少なりとも興味があったか、金が必要だったからだろ」

図星を指されて言葉に詰まった。

「気持ち良くなって金も貰えるんだ。な?」

圭先輩に優しく諭されて、単純な俺は小さく頷いた。


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