「円先輩」

夏見が爽くんより早く部室に来るのなんて久しぶりだ。










叶わぬ恋7








「どうした?」
「今日はあいついないんだ」
「うん。今日は爽くんより夏見の方が早かったね」

夏見が部室に来た時の定位置。窓際にある椅子に後ろ向きに座って、珍しく校庭じゃなくピアノに向かっている俺の方を見て声をかけてきた。

「俺、彼女いないんだ」

唐突にそう言う夏見の言葉がいまいち理解できない。
今までだったら彼女ができた別れたの報告はあっても、いないという報告はなかった。

「前にさー先輩の困った顔見るの好きって言ったの覚えてる?」

なんで今日はこんな話をするんだろう。鍵盤に向けていた顔を夏見の方に向けて肯定の意味を込めて微笑む。

「困った顔は好きだけど、悲しい顔させたいわけじゃないんだよね」
「…意味、わかんない」

ガタンと大きな音がしたと思ったときには、夏見がもう目の前にいた。二の腕を掴まれて強引に立たされた。
思ったよりも強い力に自分の顔が歪んだのが分かった。

「いた…夏見、痛いよっ」
「円先輩」
「…どうしたの?」
「円先輩、円先輩」

二の腕を掴まれて痛い思いをしているのは俺。けど、痛そうに顔を歪めてるのは夏見。

「彼女できたらまた来る」

本当に意味が分からない。
今にも泣き出してしまいそうな顔をした夏見はそれだけ言い残して走って行ってしまった。
ひとつ、大きく息を吐き出してから窓に近付いて校庭に目を向ける。

ここ最近、夏見が一人でいるところしか見ていない。しばらくしたらまたあの隣にだれかがいるのかと思うと、自然と窓から離れることしかできなかった。


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