02






うんうん、と、一人で頷いて納得してみる。
けど、お尻に当たっているそれが一向に引く気配がない。むしろ尻を撫で回されている気がする。

「…ひ、ッ」

鞄にしては違和感のあるそれから逃れようと腰を動かした瞬間、ぎゅっとケツを掴まれた。
あまりに衝撃的な出来事に声にならない悲鳴が出る。
鞄なんかじゃない。この動きは、確実に人の手だ。

痴女?いや、痴女とかAVでしか見たことねぇし。
つか、まず周りに男しかいない。

最初は遠慮がちに撫でていただけだったその手は、形や弾力を確かめるように好き勝手に人のケツを揉みしだく。
最初は女の子と間違ってるのだろうとも思ったけど、カッターシャツと髪型を見りゃ男ってわかるだろうし…。

痴漢をされて怖くて声を出せない女の子の気持ちが初めてわかった。
まぁ、俺の場合は怖くて声が出せないってよりも、男が痴漢されて屈辱で声が出ないって言った方が正しいけど。

犯人の顔を見てやりたいけど、ぎゅうぎゅうに押し潰されていて振り向くことすらままならない。
その間にも痴漢野郎は尻を撫で回して、更には器用に谷間を見つけ出して指をグイグイ押し付けてきた。
圧迫感と恐怖感で、目に生理的な涙が浮かぶ。

「ちくしょう……死ね」

ドアについていた手を握り締めて小さく零す。
痴漢にも聞こえたのか、その言葉が合図だったかのように手が前に回ってきて制服のファスナーがゆっくりと下げられようとしている。

「や、やめ…っ」

抵抗しようと声を出すけど、きちんとした言葉を発する前に口を手で塞がれた。
ファスナーが開けられていくのが怖くて奥歯がカタカタと鳴る。

と、そこで車内アナウンスが響いて、俺の降りる駅が告げられた。
車内アナウンスの瞬間、俺の口を塞いでいた痴漢野郎の手が緩んだのを見計らって、親指の付け根というか、手首の辺りに思いっ切り噛み付く。

「い゙…っ」

背後で痴漢の呻き声が聞こえたのと同時に扉が開いた音が聞こえて、慌てて飛び降りた。

「はっ、はぁ…はぁ」

電車から降りてみると、さっきの出来事が思ったより怖くて足が震え出す。
下ろされたファスナーを急いで上げてから、自分を落ち着けようと深呼吸をしていたら、後ろから手首を掴まれる。

「や!やだっ、離せ」
「ちょ、光輝落ち着けって!俺だよ」
「え?あ…なんだ、佐藤」
「お前、顔色悪いけど大丈夫か?具合悪い?」

心配そうに見てくる佐藤になんだかホッとして涙腺が緩む。

「ん。なんでもない」

痴漢された、なんて大して仲良くもないクラスメートに相談出来る訳もなく、頭を左右に振った。

「ならいいけど。光輝、学校まで一緒に行こう?」

気を遣ってくれているのか、優しい佐藤を見ているとさっきまで痴漢にあっていたなんて夢なんじゃないかと思ってしまう。

「無理すんなよ」

そんな優しい言葉を掛けてくれる佐藤が、カッターシャツの腕捲りをやめて手首のボタンまできっちり留めていたことなんて、俺は気にも止めなかった。


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