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俺は人混みが嫌いだ。
だから、通学に使う電車も朝早くのやつに乗って、通勤ラッシュに巻き込まれないようにしている。
綺麗なお姉さんとか可愛い女の子との密着ならまだしも、くたびれたサラリーマンやおっさんとの密着なんて考えただけで吐き気がする。

「……最悪」

俺は人混みが大っ嫌いだ。
だから、寝坊したせいで通勤ラッシュに被ってしまったこの状況に、思わず今の気持ちが口をついて出てしまう。

いつも乗る電車より何本か遅れたショックで無意識にため息を吐きながら、発車時刻を確認する。

「あれ?光輝じゃん。おはよっ」
「佐藤……おはよう」

背後から名前を呼ばれて反射的に振り向けば、爽やかにはにかんだクラスメートの佐藤が立っていた。

「初めて会うけど…光輝、電車いっつもこの時間?」
「いや。今日は寝坊して」
「ふーん……。じゃ、俺まだ切符買ってないから。また学校でな!」

慌ただしい奴だな。
そもそも佐藤とは今年初めて同じクラスになって、全く喋ったことないし…ビックリしたー。
整った綺麗な顔立ちだし爽やかだし、カッターシャツの袖は綺麗に捲られて、几帳面な性格が滲み出ている。ぐちゃぐちゃに袖を捲って、爽やかでもなんでもない…むしろ男臭い俺がまさか声掛けられるなんて思わなかった。

学年でもトップクラスのイケメンに声を掛けられてちょっとだけ新鮮な気持ちになりながら、俺は満員の電車へと乗り込む。


この混みようでは言うまでもなく席に座れず、電車に乗り込んだ俺は、器用に人の間をすり抜けてドアの近くをキープするので精一杯だった。

もう絶対寝坊しない。あと5分とか言わない。寝ぼけてアラーム止めたりしない。

両手をドアに付けて窓の外を流れる景色を眺める。
目的の駅まであと約30分。寝坊した自分を恨めしく思いながら、周りに感じる熱気を我慢するしかなかった。


不規則に揺れる電車に、近くの誰かに寄り掛かってしまわないように足に力を入れて踏ん張る。
扉のすぐ近くに立ってしまったせいで吊り革に掴むことも出来ず、不安定な状態でただただ駅に到着するのを待つしかない。

「……っ!」

不意にお尻に何かが当たって息が詰まる。

一瞬驚きはしたものの、男の自分が痴漢に遭う筈がない。きっと後ろにいるサラリーマンの鞄が当たってしまっているんだろう。
当たったのが男の俺で良かった。
これが女子高生やOLのお姉さんならば、痴漢だの変態だの、この車両は大騒ぎだ。それに、後ろのサラリーマンが冤罪で捕まっちまうとこだった。


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