02






「ひっ」

時間切れの意味を考えようとしたのと同時に、耳へとキスをされてしまった。
直接鼓膜に響く渇いたリップ音に、思わず小さな悲鳴が出る。

「な、な、なにっ!するんですか」
「シカトしたらチューするっつったじゃん」
「き、聞いて、ないですよ」
「んじゃ聞いてない虎太郎くんが悪い」

先輩があまりにもしれっと答えるもんだから、ほんとに聞いていない僕が悪い気がしてしまう。

「虎太郎くん、俺と付き合ってください」
「無理です」

いまだ後ろから抱き着いている先輩が、さっきより腕の力を強めて告白的な発言をしてきたのに対し、即拒否する僕。

「虎太郎くんボーイズラブっての?好きなんでしょ。だったらいいじゃん、付き合おうよ」
「べ、別に、BLが好きだからって、男が好きな訳じゃ…」

なにやら色々と勘違いをしている先輩に言い返す。

「……ふーん」
「えと、なんか、怒ってますか?」
「べつに」
「あ、せ、先輩は、漫画とか読まないん、ですか?」

後ろから不機嫌な雰囲気が漂ってきて焦った僕は、空気を変えたくて質問をぶつける。
そもそも、僕が焦る必要なんてない筈なのに。

「あー、まぁ少年漫画とか少し読む」
「え、どんなの読むんですか?」

まさか先輩みたいな人が漫画を読むなんて思っていなくて、予想外の先輩の読む発言が嬉しくて先輩と目を合わせようと巻き付いていた腕を引き剥がして振り返る。

「なにそのキラキラした顔」
「え?」
「やべー、マジ虎太郎くん可愛い!」

折角引き剥がしたのに、今度は前から抱き締められてしまった。

「は、放してください!」
「名前呼んでくれたら放してあげてもいいよ」

声だけで先輩が楽しそうな顔をしているのがわかる。
悔しいけど運動音痴で体力も皆無な僕が、放すまいと腕に力を入れた先輩に敵うはずもない訳で…従うしかない。

「仲村先輩」
「いやいや。名字じゃなくて、名前」
「す…昴、先輩」

言わされてる、って思うと何故か恥ずかしくなってきて語気が尻窄まりになってしまった。

「超可愛い!絶対に付き合って犯してやるから」

解放した瞬間に頭をわしゃわしゃと乱雑に撫でながら楽しそうに先輩が宣言する。

僕はというと、されるがままになりながら、チャラ男攻めもいいかもなぁなんて呑気に考えていた。
まぁ、自分が受ける気なんてないけど…。


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