ネーム






「椎葉先輩!」

相も変わらず無邪気な笑顔を向けてくる爽くんに釣られて、思わず俺も笑顔になる。










叶わぬ恋6








「ん?」
「また外見てたでしょ」

そう指摘されると、一瞬顔の筋肉が強張った。
いつもと変わらない爽くんの筈なのに、何を見ていたか見透かされているようで怖い。

正直外を見ている自覚はなかった。
でも、無意識に夏見の姿を捜していた。

「見てないよ」

ニッコリと笑いながら言うと、爽くんは俺を指差す。

「嘘つき」
「…………」
「あ、先輩のこと困らせたい訳じゃないんだよ!ごめんなさい」

急にシュンとする爽くんは、本当に小型犬みたいだ。

「うん。わかってる」

爽くんは、誰かを困らせて面白がる人間じゃない。
誰かみたいに。

爽くんが窓に近寄って何かを指差している。
その方向に目をやると、夏見がいた。

「…ぁ」

思わず、小さな声を漏らしてしまう。
爽くん気付いてないよね?

「最近、夏見先輩一人ですよね」
「あ、うん」
「彼女はどうしたんだろう?」

爽くんの一言に胸がチクリと痛む。
ジッ、と夏見の姿を見ていると、急に爽くんに抱き着かれた。

「わっ、爽くん?どうしたの?」
「あんまり夏見先輩ばっかり見てるとヤキモチ妬いちゃいますよ」

唇を尖らせて拗ねている姿が可愛くて頭をポンポンと撫でる。
目が合うと、爽くんの腕に力が篭った。

「……円、先輩」
「え?」
「円先輩って、呼んでもいいですか?」

真剣な表情をしている爽くんに、何も言えず小さく頷く。途端にいつもの笑顔に戻って、俺は安堵の息を洩らした。

「円先輩、今日も一緒に帰りましょう!」
「うん」

元気良く言って鞄を持ち上げた爽くんに返事をしつつも、頭には一人で帰っている夏見の姿が離れないでいた。



 



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