04.選択の余地




今僕らに、というかやなぎに残酷な事実が突きつけられている。僕は手を握ることしか出来なくて、ひたすら無力感に襲われていた。

この重たい空気の中、次に喋ったのはコムイさんだった。


「資料の通り、この村はほぼ壊滅状態だ。人が残っている可能性の方が少ない。」

「イノセンスか?」

「いや、まだ確認できてない。というよりできないんだ。」

「ファインダーの人たちはどうしたんですか?」

「・・・昨日から音信不通なんだ。でも、これ以上ファインダーを送ることはできない。」


悲劇は悲劇を生むから。


アクマは村人を殺し、残された遺族がまた悲劇を呼ぶ。この繰り返しがこの村をこんな状態にさせたのか。早く、早くなんとかしないと。


「それでね、やなぎちゃん。」


コムイさんの呼びかけに今まで押し黙っていたやなぎが顔を上げた。瞳がユラユラ揺れていた。


「どうする?神田君と一緒に行くかい?」

「え・・・そりゃあ、行きますよ。私の故郷だから尚更早く行かなきゃ。だからコムイさんは私をここに呼んだんでしょ?」

「僕もそう思ってたんだけどね、事態はすごい速さで深刻化してるんだ。」

「だったら!」

「君のシンクロ率じゃ・・・」


今回の任務は危険すぎる


僕は奥歯を噛んだ。喉がゴクリと動く。そうだ、やなぎのシンクロ率は決して安心といえる値ではないのだ。今の状態でアクマの巣に行くのは危険すぎる。


「俺は庇わねえぞ。」

「神田・・・・・?」

「俺はもしものことがあったらお前を切り捨てる。俺はお前みたいなのを庇ってる余裕はないからな。」

「ちょっと、神田。そういう言い方は・・・」


僕は神田の肩を掴む。ギロリと視線を向けられて、僕の視線とぶつかる。だって、そんな言い方ひどすぎる。僕の腕に力が入った。


その時


パタンと音がした。音の方を向けばやなぎが資料を閉じた音だった。


「コムイさん、私に行かせてください。」

その言葉に僕達三人は目を丸くした。僕は神田の肩を掴んでいた手から力が抜けてパタリとぶら下がった。


「確かにシンクロ率は低いけど、この任務は私が行かなくちゃいけないと思う。私の故郷を、助けたい。」

お願いします、と深く頭を下げた。上げた顔からのぞいたその目は涙で揺れていて、あと一度でもまばたきをしたら零れてしまいそうだった。

しかし、その目は決して弱々しいものではなくて強い意志が灯ったような、そんな目だった。


コムイさんは安心したように頷いて少し笑った。

「・・・そう言ってくれると思ったよ。」

「・・・?」

「本当に事態が深刻だからやなぎちゃんに少しでも迷いがあるなら、任務から外そうと思ってたんだけど、どうやら大丈夫なようだね。」

試すみたいなことしてごめんね。

「この任務は予定通り、神田君とやなぎちゃんに行ってもらうことにするよ。」


やなぎの目に活力が戻り、ありがとうございます。と笑った。そして、


「神田、私神田の足を引っ張るような真似はしないから。もし、私がダメになったら、

遠慮なく切り捨てて。」


神田はしばらく目をパチパチさせて、やなぎを見ていた。そして

「チッ 明日、ちゃんと起きて来いよ。」

「僕が起こすのでご心配なく、神田。」

「・・・勝手にしろ。」

そう言って司令室を出て行った。



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