「絶対起きろよ!」
「分かってるってば!もう子供扱いしないでよ神田!」
「てめ、前の任務で出発時間まで寝てたのはどこのどいつだコラ。」
ぎく。
「次は絶対起こしに行かないからな。」
「ちょっと!何、人の彼女の寝込み襲ってるんですか!」
「襲ってねえよ。誰がこんなちんちくりん襲うか。」
「ち・・・ざけんなバ神田!」
僕、神田、やなぎの三人は司令室に向かっている途中だ。僕は別に関係ないのだけどやなぎと神田を二人にするのはどうしようもなく癪なのでついてきてしまった。
「ていうかなんでモヤシがいるんだよ。」
「アレンです。いいじゃないですか別に。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「なんでこうもいがみ合うのかな、二人は。」
はーあ、とあからさまに困ったようなため息をついているのにやなぎの口角は微かに上がっていた。それを見た僕も少し嬉しくなる。神田は明日は起きろよ、と言った。
これも日常。
気がつくと司令室のドアの前。やなぎは扉の前に立ち、深呼吸をする。そして右ももに収納されている自身のイノセンスの有無を確認。この動作をやり終えて初めてやなぎはドアノブを握り、ドアを開ける。
なぜ、こんなことをするかって?それは、
「コムイさーん、来まし「やなぎっちゃーーーん!!!」・・・・ぐはっ」
ギュムッと音が聞こえるくらいやなぎを強烈に抱きしめたコムイさん。そう、ドアの前の深呼吸は心の準備のためだ。これもまた日常。
「コ、コムイさん痛い・・・!!」
「僕の可愛い妹よ〜甘えてくれてもいいんだよ!」
「妹じゃないし!」
ちぇ〜っといじけた素振りを見せるコムイさん。コムイさんはやなぎを本当の妹のように扱う(勿論リナリーには負けるが。)。やなぎはそれを嫌がるどころかむしろ喜んでいた。だけど、僕がやなぎと付き合っていると知った数日後、僕のコーヒーの中に変な薬が入っていた。僕にとってはちょっとした脅威だった。
「まあ、座って。それ資料だから読んどいてね。」
「ありがとうございます。」
僕らは指を指されたソファに座り神田とやなぎは資料をパラパラとめくる。僕はやなぎの資料を覗き込む。パラパラとページをめくるやなぎの目があるページの写真をとらえ、ほんの少しだけ空気が重くなった。
「ここ、知ってる。」
「ここを?」
「うん。私の家の近くの墓地。お父さんとお母さんがいる所。こんなになっちゃったんだ・・・。」
「やなぎのお父さんとお母さんは・・・」
「私とさくらが7歳の時に事故で死んじゃった。それから私が10歳の時にエクソシストになって家を出ちゃった。」
「じゃあ、さくらさんは?」
「親戚の所だと思う。でも親戚の家も資料の写真の近くにあるから、もうあるかどうか・・・。」
やなぎの声が震えていた。下を向いていて表情こそ分からないが、今は見てはいけない気がした。
そして例の資料の写真をもう一度見る。僕から見たらここが墓地ということも分からない。映っているのは大きな木と焼け野原だった。きっとこの木が墓地であることを彼女に分からせたのだと思う。この墓地がこんな荒れ具合なら他の場所もかなり攻撃に遭っているはずだった。
僕はただ、やなぎの震える手を握ることしか出来なかった。
なんて無力。
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