08.月光と体温




気がついたら僕はやなぎを抱きしめていた。小さく細い身体だ。その肩は微かに震えていた。寒さからなのか、そうでないのかは僕には分からない。やなぎは僕の服が汚れてしまうと離れようとするが僕はそれを拒むようにいっそう強く抱きしめた。そんなことだれが構うもんか。

やなぎはゆっくりと口を開いては閉じるの繰り返し。そしてまた考え込む。月が真上に昇る頃、やなぎはポツリ、ポツリと話し始めた。

「本当はすごく怖いの。次の任務で最期になるかもしれないとか。仲間を・・・家族を守れなかったらどうしようとか。

私は、みんなみたいに強くなりたい。早くみんなに追い付きたい。でもさ、時々もうこれ以上は強くなれないような気がして不安になるんだ。

私は出来損ないの使徒なんじゃないかって。」


そう言ったきりやなぎはまた黙ってしまった。しばらくしてまた嗚咽が漏れた。僕は黙って背中をさする。正直どう言えばいいのか分からなかった。やなぎが尋常じゃない練習をしていることを僕は知っている。それなりの実戦を積んでいるのにやなぎのシンクロ率は一向に上がらなかった。まるで上限を示唆するように。

「やなぎ・・・」

「ねえ、アレン。」

やなぎが埋めていた顔を上げ少し腫れた目で僕を真っ直ぐに見て言った。


「もし大切な人がアクマになったらどうする?」


マナ・・・懐かしい人が頭をよぎった。僕がアクマにした大切な人。僕が壊した大切な人。

「破壊・・・しますよ。」

「じゃあ、私がアクマになったらどうする?」

「ぶっ壊します。」

「そこ即答なんだ。」

その場の空気が少し和んだ。まあ、分かってるけどね。とやなぎは微笑んだ。

「さくらさんのことですか?」

「あんな状態じゃ、そういう事態も覚悟しなきゃと思ってさ。」


あの墓地の写真を思い出した。やなぎは満月を見上げた。月光がやなぎの頬の涙の跡を照らして、僕を憂鬱にさせる。でも僕の気持ちとは裏腹にやなぎの口角が上がった。


「やっぱりアレンに言って良かった。」

「僕、何も言ってないんですけど。」

「私、どんな形であっても、故郷を守るよ。それが破壊ででも。」

「うん。」

「アレンに話したらイノセンスがどうとか、どうでもよくなっちゃったよ。」


ありがとう、と僕の頬に触るだけのキスをした。そして帰ろうと腰を上げた。ちょっと待て、そんな可愛いことされたら止まらなくなるだろう。僕はやなぎの手を掴んで訴える。


「イチャイチャしたい。」

「雰囲気台無し!」

「先に仕掛けたのはやなぎじゃないですか!」

「私が悪いの!?」

「そうです。今日はもう帰しません。」

「明日任務なのに!」


そんな訴え僕には効かない。だって今日はとびきりの口実があるから。


「明日やなぎが寝坊しないように起こしてあげますよ。」

「本当?」

「ええ、だから早く部屋行きましょう。」

ここは冷えます、と立ち上がり服に付いた砂を軽く落としてやなぎの顔を覗いた。本当は嬉しいくせに、そう言うとやなぎがうるさいのでやめておく。

「今夜は特別だよ。」

「はいはい。」


僕らはいつもみたいに手を繋いで帰った。


やなぎの嫌なことも辛いことも、今夜だけは見えない所に押しやって忘れさせて欲しい。

僕はいるかも分からない神様に願った。




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分かります。
ぐっちゃぐちゃです。

後半は書いてる本人も何が何だか分からなくなってます。



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