群青と少年



「だ、大丈夫ですか?」


おかしい。
今確かに屋上から飛び降りたはずなのに、


「いえ、僕は大丈夫です。」




私は生きているらしい。




________




どうなってるのか、私にもよく分からない。ただ、分かることは一人の少年が私の手首を掴んでいて、尻餅をついている。私の下で。はたから見たら、私が少年に馬乗りになっているように見える。


「怪我はないですか?」

「・・・うん。」


少年は良かった、と笑った。私には眩しすぎる笑顔だった。


「どうしてあんなとこにいたんですか。」


落ちたら大変ですよ?と彼は言った。


「落ちようと思ったの。」

「え、それって・・・」

「うん、死のうと思った。」


彼は驚いたような目をした。言葉を探してるんだろうか。間が二人を包む。俯いていた少年は私を見たかと思うと、まっすぐに私を見て言った。



「理由はなんであれ、自分から死ぬようなことはしちゃだめです。」

「・・・・・。」

「君には、君を心配してくれる人がたくさんいるでしょう?」


少年の言葉が私に重くのしかかった。私なんて、いなくても誰も・・・


「そんな人、いないよ。」

「家族がいるでしょう。」

「いないよ。」

「友達は?」

「友達もいない。」


自分で言ってて嫌になる。目の奥で涙が待機している。群青が、揺れる。


「みんな外見でしか、人を見てくれない。」


私は言葉を落とした。


「私の外見を見て、みんな私を別の生き物みたいに見る。」


言葉は絶えず、口からこぼれ落ちては、彼の膝に落ちる。

茶色い髪も、真っ青な目も、いらない。


「こんな風に生まれたくなかったよ。」


涙腺は決壊した。次々と出てくる涙は洪水のように頬を伝って、少年の制服に染みを作った。こんなこと、少年に言ってどうするんだろう。きっと困ってる。でも涙は止まらない。

少年は、私の手首を前よりも力強く握った。


「・・・僕も、そう思ったことありますよ。」

「え・・・。」

「ほら、こんな格好でしょう?」


彼の格好は、白髪、そして顔にはなにかのペイント。左手は火傷・・・みたいな跡がある。


「僕も、そう思ってた時がありました。でも、僕にはちゃんと心配してくれる人がいましたよ。だから、あなたも死んじゃだめだ。」

「そんな人、いないって言ってるじゃん。」


私は少年から目をそらす。


「こっち向いて下さいよ。」

「・・・・・。」

「葵さん。」

「!!」


私は少年を見る。私の名前を呼んだから。人に名前を呼ばれるなんて、いつぶりなんだろう。


「葵さん、僕は君のこと4月からずっと見てたんですよ。」

「なんで・・・」


意味が分からない。私は今少年を初めて見たというのに。


「君がさっき嫌いだって言ったその目。僕は好きなんです。」

「・・・この目が?」

「はい。だってその色すごく綺麗じゃないですか。」

「全然、綺麗じゃない。」

「綺麗ですよ、葵さん。その色は群青色って言うんです。」

「群青?」

「そう。だから僕ずっと君のこと気にしてたんですよ。」


彼は照れくさそうに頭をかきながら笑う。


「嘘、だよ。そんなの。」

「本当です。僕が君のことを心配してるから、君はもう死んじゃだめだ。葵さん、」



世界はまだ私を、



「僕と友達になりませんか?」



見捨ててなかったようだ。



私は嗚咽に消される言葉を必死で紡いで、ありがとう。と、彼に言った。




群青と少年。
→無駄に長くてすいません。まとめきれなかった・・・。

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