私は屋上にいる。
グラウンドでは私のクラスの女子達がきゃいきゃいバレーボールをしている。今日の体育はバレーらしい。私はそれらを見ながら5月の風に吹かれている。
右頬が痛む。さっき情熱を気取った体育教師は私をひどく叱った。
カラコンなんてしてないし、髪も地毛だし。何も悪いことなんてしてないもん。
先生も分かってるんだ。私がイギリス人のハーフだってこと。でもそんなこと関係ないんだね。彼が私を目の敵にしてるだけだ。
私はその体育教師が嫌でよく体育をサボった。その時は決まって屋上に来る。誰も来ない、私がこの学校でいちばん好きな場所。
「私も体育、やりたいなあ。」
誰に言うでもなく、ぽつりと漏れた言葉。クラスの子とは5月の今でも馴染めていない。うまく笑えない。話せない。
本音を言ったら、引かれてしまうかもしれない。笑っても、相手は笑ってくれないかもしれない。
笑えるということは、自分が心を許しているってことだ。だって、笑うと無防備になる。
私は、私の世界では笑えない。
私は握っていたフェンスの網目を強く握った。考えることはひとつ。
「死んだら、楽かなあ」
フェンスに足をかける。骨が軋む。5月とは思えない強い風邪が私の背中を押す。私の選択を肯定しているように。
私は目を閉じる。
血の繋がっていない、私が心を開けなかった親に、一言だけ。
「ごめんなさい。」
私は空を歩いた。
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