「ねえ、アレン君。醤油とって。」

「・・・・・・・。」


僕は黙って彼女を見る。これではせっかくのモノローグが台無しだ。
僕は黙って醤油を彼女に渡す。

「ありがと。」

彼女はそう言って夕食の冷や奴に醤油をかけた。僕は流れる醤油を一点に見つめる。

「アレン君怒ってる?」

「別に怒ってないですよ・・・。」

彼女は知らないだろうな。
好きな人の名前を呼ぶのにどれだけの勇気がいるか。それなのに彼女はさっきから僕の名前を躊躇なく呼ぶ。おかげで僕の心はこれでもかってくらいにあわだっている。


「・・・ひかり。」


僕は無意識に彼女の名前を呼んでいた。



誰かの名前を呼ぶのは・・・



「・・・なあに?」

彼女はニコリと微笑む。

「あの・・・。」

「ん?」

彼女は僕の言葉を待っている。はしを持つ手を止めて。彼女は僕の目を見ている。とても優しい目で。

「・・・何でもないです。」

「ええっ?」

僕は耐えきれないとばかりに自分の頼んだ大量の夕食に目を落とした。彼女の視線を感じるような気がするけど、気にしないふりをしてそばにあるオムライスを口にかきこんだ。おかしいな、いつもおいしいジェリーさんのオムライスが今日はまるで味がない。でも僕は気にしないで食べる。


すると、彼女はクスッと笑ったようだった。



「アレン君。」



僕は顔を上げた。
彼女は真っ直ぐ僕を見て笑っている。



「なんですか?醤油?」

僕は醤油を取ろうとする。

「あ、違う醤油じゃないの。」

「え・・・何ですか?」

「うーん、特に用はない、かな。」

彼女はへへ、ごめんね!と言った。



何だったんだろう?と思いながら再びオムライスをかきこみはじめた。




「アレン君。」



僕はまた彼を上げる。
今度はさっきと違って彼女は微笑んでいなかった。目線もどこか外れている。僕は彼女に何かあったんじゃないかとだんだん心配になってきて、持っていたスプーンをテーブルに置いた。



「何かあったんですか?」



僕は彼女を真っ直ぐに見つめる。



彼女が僕の名前を呼ぶとき。


それが助けを呼ぶときなら、僕は迷わず手を差し出そう。



彼女は、あっ、そういうんじゃなくてね・・・。ごにょごにょと僕には聞き取れない言葉を喋った。



じゃあ、君は。
ひかりは何で僕の名前を呼ぶの?



彼女は口を開く。



「あの、なんかただ・・・。アレン君にこっち向いて欲しいなって思って・・・」


ごめんね!と言ってあははと笑うけれど、彼女の顔はどんどん赤くなっていく。





君の名前を呼ぶとき。


君にこっちを向いてほしい時。
笑って欲しいとき。




じゃあ、君は?

僕と同じだったらいいのに。



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