授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。寒い。帰ろう。僕はいそいそと自分の持ち物をカバンに詰め込む。お昼の一件のせいで僕はひどく不機嫌だった。

「アーレンッ♪これからどっか飯食いに行かねえ?」

ラビが相変わらずのハイテンションで僕の肩を抱く。本来の僕なら二つ返事でOKするところだが、今日はどうだろう。正直あまり気分じゃない。ラビは僕が渋っているのを感じ取り抱いていた肩をバシバシ叩く。痛い。

「まだ怒ってんさ?こういう時こそ食って忘れちまおうぜ!」

みたらしでも食いに行くか!と言ってまた肩をバシバシ叩く。ラビなりに僕を元気づけようとしているのが分かる。少し鬱陶しいと思う反面、とても嬉しい。僕は気分転換を兼ねてラビの誘いを受けることにした。

しかし僕は職員室に用があったのでラビに教室で待ってもらうことにした。

僕は小走りで渡り廊下を通る。窓から橙色の夕日が見える。もう5時頃だろうか、お昼にみたらしを追加しなかったのはいけなかった。やっぱりお腹が空いてきた。早く用事を済ませて帰ろう、とドアを開けた。


ドンッ

「うわっ」

ドアを開けて敷居を跨いですぐに人にぶつかった。女の子だ。あらかた用のある先生の机でも探していたんだろうが、入り口の真ん前で立ち止まらないで欲しい。と言いつつ僕も急いでいて前をよく見ていなかったからお相子なのだけど。

僕がぶつかった衝撃で女の子が持っていた書類入りのファイルを落としてしまった。運の悪いことに中身が散らばってしまっている。女の子は慌てて拾おうとしゃがんだ。いかん、僕も拾わなくては。

「すいません。大丈夫ですか?」

そう言いながら僕がしゃがんだら、彼女の頭がゆっくりと上がった。


ドキン、と胸が鳴った。

まるで映画のワンシーンみたいにスロー再生された。少し長めの前髪から覗く瞳、ふし目がち、長いまつげ。彼女の引力に吸い込まれそうだ。

今まで静かだった水面が突然波立ち始める。


「あ・・・・。」


戸惑った様子の彼女がこちらを見ている。はっと我にかえった。見つめてしまった。僕の止まっていた思考は徐々に動きを再開し、状況を把握する。そうだ、書類を拾うんだ。

「書類、散らばっちゃいましたね。本当にすいません。」

笑顔に気を付け、テキパキと書類を拾い上げファイルに戻す。そして全部拾い上げて立ち上がると彼女はまだしゃがみ込んだまま僕を見ていた。そんなに見られたら穴が空きそうだ。

「立てますか?」

彼女はそう言って差し出した僕の手をしばらく凝視して、恐る恐る手を重ねた。

柔らかいな、というのが率直な感想。少し小さな手でちょっと冷たくて気持ちいい。

書類を受け取った彼女は先生の机の上に書類を置き僕の前まで小走りで戻ってきた。


職員室の前で、僕は彼女に別れを告げる。下を向いて黙って頷く。煮え切らない。水面に波紋が次々に広がって僕の身体に染みた。


「ばいばい。」


手を振ってみたけれど、彼女は会釈。物足りない。僕はもと来た廊下を引き返す。僕は彼女のことで頭がいっぱいだった。

どんな子なんだろう?

名前は?年は?

どんな顔で、どんな声で、

どんな風に笑うんだろう?


彼女は僕に近付いてくる女の子とは全然違ってた。もっと知りたい。もっと話してみたい。僕の手にはまだ温度の感覚が残っていた。


「ラビ、」

教室に戻り、本を読んでいたラビに問う。

「一人の子を知りたいと思うのは恋なんですかね、」

ラビがしばらく僕を見てまばたきを繰り返したが、本を閉じ、体を僕に向けた。

「何、なんかあったんさ?」

「・・・ただの興味本位ですかね。」


僕の気持ちもお昼の女の子と同じなのだろうか、一目惚れなんて本当にあるんだろうか。


「なんでも初めは興味本位だろ。それが恋なのかは俺じゃなくて自分に聞け。」

ラビが笑った。


それから僕が木村ひかりという名前を知るのはもう少し先の話。



檸檬愛玉

初恋の味をまだ知らない。


―――――――

途中から音をたてて崩壊していきましたね(笑)
男の子は分からんです。
はい、言い訳^^



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