それは一目惚れだった。
スロー再生のように脳に映る彼女はなかなか消えてくれない。少し長めの前髪から覗く瞳、ふし目がち、長いまつげ。
君は一体どんな子?
会えない間に僕は彼女のイメージを勝手に作ってしまう。
だから早く、
早く君に会いたい。
この気持ちはまるで、
「まーたあの子俺のこと見てる。」
「・・・・・は?」
職員室からの帰り、渡り廊下を歩いていた時に隣にいるラビが言った。
「自惚れにも程がありますよ、ラビ。」
「いや、本当なんさ!まじで俺の方じっと見てんだよ!」
「じゃあ、なんでその子と目が合わないんですか?」
「あ。」
それはその女の子がラビを見ていないからだ。それではラビがいつまで見ていても目なんて一生合わない。
「じゃあ、誰見てんだろ。」
「さあ、誰ですかね。」
「お前だったりして。」
「まさか。」
そんなわけないですよ、と僕はケラケラ笑った。
――――――
「んでさ〜、その子が可愛くてさ〜。」
お昼の学食。ラビがパスタを口に運びながらどこかの知らない女の子の話をする。
僕は生返事をして目の前にある大量の昼食を頬張る。次はオムライス。やっぱりジェリーさんの料理は美味しいなあ、
「んでさ、その子がさ、」
「へえ〜そうなんですか。」
「・・・・アレンさん?」
「へえ〜、そうなんですか。」
「ちょ、聞いてる?」
「へえ〜そうなんですか。」
「ちょ、泣いてい?お兄さん泣いていい?」
やっぱりみたらし団子もう少し食べよう。
「ラビ、僕みたらし追加してきま・・・なに泣いてんですか?」
「もういいさ。」
どうしたんだろラビ、悩み相談ならもう少し真面目に聞いた方がよかっただろうか。ま、いいか。ラビだし。
「なあ、アレン。お前女の子とか興味ねえの?」
突然切り出された話に僕はラビを見る。
「別に興味なくはないですけど。」
「まじでか!じゃあ好きな子とかいんの?」
「いないです。」
何を聞くかと思えば・・・。あ、そういえばみたらし追加に行くんだ。
「お前女子にモテるのにな。」
席を立った僕にラビはそう言った。冗談か、本気かは表情からは読み取れなかったが、人生損してんぞ。とも言われた。
確かに僕は周りの女の子に声をかけられたりすることが少なくない。むしろ結構ある。でもそれはきっと、
「ただの興味本位ですよ。」
そう言い残して席を立った。
さあて、みたらしをあと何本食べようか。学食のメニューの前で考える。昼食時間ももう終わり時。周りはデザートを求めてやってきた女の子がたくさんいた。嫌な予感がした。
『わあ〜ウォーカー君だ。かっこいい!』
『ちょっと話しかけてみなよ。』
『え〜無理だよぉ。』
ひそひそと話しているつもりらしいが完全に本人に聞こえている。苦笑いものだ。僕の外見は日本人から見たらそれはそれは珍しいものなんだろう。女の子は興味本位で近づいてきた。当たり障りなく接していたら紳士なんて呼ばれるようになり、今のような状況に至る。しかしまだこれは可愛いもので、
ドンッ
「きゃっ」
「おわっと」
左半身に衝撃がはしる。女の子が僕にぶつかってしまった。いや、正確に言えばぶつかってきた。そしてよろめいた猪のような女の子を僕は慣れた手つきで支える。その間には内心で‘また来た。’と思っている。よし、笑顔の準備だ。
「大丈夫ですか?」
一応聞いておく。
「あ、はい〜大丈夫ですぅ」
「それならよかった。」
大丈夫に決まってますよね、だってわざとですから。と気を抜いたら言ってしまいそうだ。僕は頬の筋肉をMAXで収縮させる。びくつきそうだ。次に言われることは分かっている。
「あ!ウォーカー君、ごめん!ウォーカー君のジャケット汚しちゃったみたーい。」
いっけなーい☆って全然悪いと思ってないですよね?
「お詫びに洗って返すよぉ」
「いや、それは流石に・・・」
もういいから。本当に詫びたいなら、みたらし奢ってくれ。
「ダメだよぉ、ほら貸して!」
「え、ちょっ!あの」
「じゃあ、明日持って来るね!」
・・・・・こうして僕が私物(タオルとか)を奪われるのはザラである。前に一回だけズボンにこぼされた時はどうなるかと思った。きっと今の猪な彼女は明日にでも匂いのキツい柔軟剤で洗ったジャケットといっしょにお詫びと題した手作りのお菓子を僕に押し付けにくるのだろう。
それを考えるとみたらしなど食べる気には到底なれなくて仕方なくラビのいる席へUターンした。
ラビは不機嫌丸出しで帰ってきた僕がジャケットを着ていないことを確認し、ヘラッと力のない苦笑いに近い顔をした。
「またやられたんか。」
「ただの興味本位ですよ。」
もう慣れっこなんだ。
噂話も肌寒さも。
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