片思いをしてた。


その人は一つ年上の先輩で、いつも友達に囲まれてて、笑顔が素敵な人だった。

当然私なんかと接点があるわけもなく、職員室へ行く時に通る渡り廊下で彼とすれ違えたらラッキー!みたいな次元だった。

だからすれ違えた時はこれでもかってくらいに彼の姿を焼き付ける。またしばらく見れなくてもいいように。

主に横顔と後ろ姿。
面識もないのに彼の顔を正面から見る度胸など私は持ち合わせていない。バレないように、怪しまれないように。その後ろ姿が他の生徒に掻き消されるまで見ていた。

その時の胸の中の心地といったらまるで、



「ひかり〜僕の話聞いてるぅ〜?」

「うん?」

しまった、完全にぼーっとしてた。一緒に歩いてるロードの話なんて聞いてなかった、なんて本人に言えるわけないので、ヘラッと笑って首を傾けてみる。


「も〜!やっぱり聞いてないんじゃーん!」

「ごめんごめん。何の話だった?」


ぴょんぴょん跳ねて私の腕をとるロードを落ち着かせると、むうっと頬を膨らませる。


「ひかり最近なんかぼーっとしてるよねぇ?」

「え!?そ、そんなことはないよ・・・?」

「僕が気付いてないとでも思ったぁ?」


ロードは不敵にニヤリと笑う。


「ズバリ、一つ年上のアレン・ウォーカーでしょぉ?」

「えぇ!?」


なんで分かったの、と言うのを寸前で飲み込んだ。本当にズバリとロードに言い当てられてしまった。


「ねぇ当たりでしょぉ?」

「ちがーう。誰それ?」

「あ、アレンだ。」

「どこ!?・・・・・あ。」

「知らないんじゃないのぉ?」

「・・・すいませんでした。」


渡り廊下でもないのに彼に会えるはずもなく、私の嘘は早々にバレてしまった。ほーらね♪ひかりは嘘が下手なんだからぁ、ロードはご機嫌で私を見上げる。


「ねぇ、なんで見てるだけなの?」

「え〜?」

「話しかけないのぉ?」

「は、話しかけるなんて!そんな・・・面識もないし・・・。」

「だーめーだーよー!挨拶代わりにチューするくらいじゃないと!」

「ちゅ・・・!ロード、あんた・・・」


ロードはスキップして私の少し前を歩く。キスはともかく話しかけるなんて。とてもじゃないけど考えられない。


「だってさぁ〜」


ロードはスキップをやめてその場に立ち止まった。そして振り返って言うのだ。



「それって寂しくない?」



ロードは私をじっと見つめる。本当にそれでいいの?と言わんばかりに。

「見てるだけで幸せなんだもん!別に寂しくなんてないよ。」

「ほんとにぃ〜?」

「本当に!」

「ほんとのほんとにぃ〜?」

「ほ、本当に。」


どんどん近付いてくるロードにたじろぐ。でもまだまだ近付いてくる。後ろに下がって距離を保とうとも、壁がそれを妨げる。逃げられない。


「ほんとのほんとのほんっ わっ・・・。」

「こら。あんまり人をいじめない。」

「あ、ティッキー。」

「ティキ先生、でしょ?」


先生がロードの首根っこを掴んだ。


「ねえねえ、ティッキー。ひかりがヘタレなんだよ〜。」

「なになに、何のハナシ?」

「ちょ、ロード!」

「ひかりね〜、好きな男の子に話しかけられないんだよぉ」

「あらま。」


ロードの馬鹿!なんでティキ先生に言うんだ。当のティキ先生はニヤニヤしながら見てくるし。私は現状に満足してるのに。


「ねぇ、ティッキーなんか言ってやって!」

「ていうかロード、お前今から数学の補習。」

「え゛ぇ〜!!やだぁ。」

「嫌じゃない。まず自分の心配しなさい。」


ティッキー先生はロードをそのまま教室の方へ連れて行く。なんとか助かった。私も早く帰ろう・・・。


「あ、ひかりちゃん。」

先生に呼び止められた。

「これ、職員室の俺の机に置いといてくれない?」

「・・・パシリですか。」

「まあまあ、お願い。」

「分かりました。」


先生から書類らしき物を受け取って私は職員室の方向に足を向けた。


「あと、ひかりちゃん。」

「今度はなんですか。」

ティキ先生は真面目な顔で言った。

「あんま満足のライン下げんなよ?」

「それ、どういう意味ですか。」

「さあ?自分で考えな。」

そう笑ってロードを連れて行った。



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