日曜日の夜、部屋の中に響くのは携帯電話のカチカチという操作音。

桃色に光る携帯。私が好きなガールズバンドの着信音は特別、君専用なんだ。


―今日は楽しかったね!

―そうですね。
あの後ちゃんと帰れました?

―うん!
ラビが家まで送ってくれたから大丈夫^^

―それが逆に心配なんですけどね(笑)

―じゃあ、今度はアレン君が送ってくれるの(笑)?


何気ないやり取りも私の宝物なんだ。全部を保護したいくらいに。


でも、忘れてはいけない。これが駆け引きだ、ということも。


―いいですよ。
なまえが僕の方がいいなら今度からは僕が送っていきます。


受信メールを見てぎょっとする。程よい高揚感を保っていた私の心臓は一気に加速する。心拍音が聞こえそうだ。胸の皮を破りそうな心地さえしてくる。

さあ、


私はなんて返そう


―じゃあ、お言葉に甘えようかな(笑)


さっきまであんなに軽快なリズムで文字を打ってたのに、操作音はゆっくり。(笑)なんて付け足して、ごまかして。出来上がった一文だけのメールを何度も読み返す。そして、送信ボタンの上に親指を置いては戻し、置いては戻しの繰り返し。何分もかけて、やっと送信ボタンを押した。

なんて返事が来るのかなんて考えただけで、怖くなって、携帯をベッドの隅っこに投げた。私は恥ずかしくなって枕に顔をうずめて、体をジタバタさせる。



突然の振動とともにガールズバンドの着信音が鳴り、私は飛び起きる。体温は急上昇。私は震える手で携帯を取り、ひとまず息を吐く。

すぐには見れない。


もし突き放されたらどうしよう、という考えが頭を駆け巡るから。


でも、君の気持ちを知りたいよ。こんな温度のない機械越しでも。

私は震える手で受信メールを開いた。


―それは、どういう意味ですか?


やられた。
瞬時にそう悟った。


彼は確信犯だ。
私の気持ちを知っている。知った上で、彼は私に言わせようとしている。

駆け引きだ。
携帯電話の向こうで意地悪な笑みを浮かべる君が容易に浮かぶ。



―私はアレン君のことが


「ーっ!言えないよ!」


好き、だなんて。

私は臆病者だから、そんなこと言えないよ。


私はついに手の届かない所に放り投げて、ベッドにダイブした。


今はまだ、言えないけど。
いつかちゃんと完成した気持ちを君に届けるから。

もう少し待ってて。



未完成のラブレターを君に

(おまけ)

「も、もしもし?」
「あ、なまえ?さっきのメールの返事、もらいに来ました」



20110827



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