>> 君と夏の日

火の粉が花のように真っ黒な空に咲いては消えていく。それは本当に一瞬の間だけ。だからきっと昔の人たちは花火なんて素敵な名前をつけたんだ。

そう思った。




―君と夏の日




「うぁっ」

いきなり左頬に痛いくらいに冷たい何かが当たって、私は小さく声をあげた。

「ぼーっとしてるからですよ」
よいしょと私の隣に腰を下ろしたアレンの顔が打ち上がった花火の色に照らされた。そして
「こーんなにあんぐり口開けて、バカ丸出しですね」
と、バカみたいにだらしなく口を開けて、いたずらっぽく笑った。なにそれ私の真似なの?

「失礼な。あーせっかくロマンチックな気分に浸ってたのに」
私はアレンから花火に目を戻し、意識的に口をキュッと閉めて花火を見ていた。
しばらくすると、アレンは私が機嫌を悪くしたと思ったのか、「はは。ごめんごめん、許して」とさっき私の頬に当てた冷たい缶ジュースを差し出した。

「おごり?ありがと」
「・・・まひるって本当に単純ですよね」

そうしてアレンも自分の缶ジュースを開けて、しばらく二人とも花火に見入っていた。



花火を見ていたら何故か急にアレンがどうしてるのか気になって、本当にさり気なくチラッと横目で見たら、見事なくらいにバッチリ目が合った。

「ん?」
そう言って首を傾けたアレンの顔が優しくて、なんだかいやに恥ずかしくなって、「なんでもない!」とまた花火を見上げた。
周りが暗くて本当に良かった。



いちばん大きな花火が空にひらいたとき、今度はアレンが私を呼んだ。
私が横を向くと同時に、横に置いていた二人の手が重なって、唇が重なった。

一瞬だった。
花火なんて目じゃないくらいに。


「だから口、開いてるんだってば」
アレンが自分の口を指差して目を細めた。
私ははっとして口をつぐんで、俯くことしかできない。

「そういう顔されると、またしたくなる」
「ひ、人が見てるよ・・・」
私は恥ずかしさのあまりアレンとは逆の方向を向く。

「へーき」
アレンの指が横髪に触れてびくついた私に、もう一度触れるだけのキスをした。

「みんな花火に夢中だから」
そして彼はまた、いたずらっぽく笑うんだ。



君と夏の日
花火が散る前にもう一度


―――――――

けいさんから「田舎っぽい夏の話」というリクエストをいただいたんですが。・・・あれ、田舎要素はどこに入ってるんだろう(^p^)あれれー

うーん、甘酸っぱさは少しは出たかなという。この後二人ともドギマキしちゃって、花火みないで俯いてたら可愛いのにとか一人でニヤニヤしてました。

けいさん、リクエストありがとうございました!


20110806



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