>> 25.逃げない

「ひかり、もう一度言う。
お前はバカか!!」

ラビが珍しくご立腹。


「・・・だって」
思い出すだけで涙が出てくる。ラビはぎょっとして取り乱した。

「ちょ、待て!泣くな。俺が泣かしたみたいさ」
「実際そうだろ」
「うっ うぅ」
「悪かった!俺が悪かったさ!ひかり泣くな!」


昨日私は失恋をした。
戦わずして。それどころか逃げ帰ってきましたよ。あの言葉の後なんて、聞かなくても分かるじゃない。

「ていうかさ、ひかり。お前は今とてつもない勘違いをだな」
「・・・聞きたくない」

予鈴が鳴った。
とても授業を受ける気にはなれない。「保健室に行く」とだけ言って教室を出た。

すっきりしない。
でも傷つきたくない。逃げるのはもう慣れた。



ガタン

「おいユウどこ行くんさ?」
「たり・・・だるいから保健室行ってくる」
「今絶対たるいって言おうとしたさ」
「うるせえ」

神田は早足でドアに向かいドアをピシャリと閉めた。



*****

「お前、いつもこのパターンだな」

ベッドの上で体操座りをしていたら、カーテン越しに隣のベッドから神田がしゃべりかけてきた。どうやら神田にまで把握されているらしい。

「よく覚えてるね」
「よく懲りずに繰り返すな」

グサリときた。言い返す言葉がないので黙っていると神田がポツリと言った。

「これで満足か?」

グサリ

「何も知らないままで勝手に自己完結させて、悲しんでて満足か?」

「お前は昔から大事なことを言わねえ。なあ、ひかり」
「うん」
「モヤシのこと、好きなんだろ?」
「う、ん。

意地悪だけど本当は優しくて、バイトの失敗を何も言わずにフォローしてくれるアレンが好き」

すき、すき、
すっごく好き。

諦めたくないよ。
アレンが誰を好きでも私は私の気持ちを変えられないよ。


シャアッ

突然カーテンが開けられた。
「かん、だ」

「それを、そのままモヤシにぶつけてこい。

お前ならできる」


神田は、いつも私を叱ってくれる。泣いてる私の正面に座ってズバズバと斬り込むように叱ってくれる。でも、その後には決まって、頭を撫でてくれる。その手の大きさはいつの間にかとても大きくなっていた。温かさは昔のまま。


―――よし。


「神田」
「あ?」
「ありがとう」


もう逃げないよ。


逃げない
君に伝えたいんだ

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