>> 24.永劫回帰

「ひかりっ!」

ガシャン!

「ぎゃああ!!」

頭に力が入りすぎて、手の力が緩みCDが滑り落ちた。無機質な休憩室に音が響いた。

「ぼーっとしてるからですよ」
「・・・・・」

無言の返事。一体誰が原因だと思ってるんだ。

「ひかり?」
「・・・なあに」
「もしかして、今日の昼に毛虫の写メ送ったの怒ってます?」
「ちがうよ!」

そう、さっきラビとの会話中に来たアレンからのメールは、本文「ひかりが喜びそう」とだけ書いてあり、添付ファイルが毛虫の写メだったのだ。

「喜んで頂けました?」
「嫌がらせとしか受け取れませんでした」
「あれ?毛虫好きですよね?」
「私は虫めづる姫君ってか」
「姫君だなんて、君もおこがましいですね」

もう、なんか案外簡単に諦められる気がしてきた。今ならできる。


「あ、そういえばひかり。僕もう一つ観たい映画あるんですけど、一緒に行きません?」

耳を疑う。なんで当たり前みたいに私を誘うんだろう。

「アレン」
「はい」
「好きな子と行けばいいじゃん」
「はい?」

私なんか誘わずにさ、

「好きな子と一緒に映画観なよ」

本音とは真逆の言葉が出てきた。可愛くない私。本当は私と一緒に行って欲しい。誘ってくれたことが泣きたいほど嬉しい。でも、好きな子は別にいるじゃない。そう考えただけで、これでもかってくらいイライラするんだよ。

「ひかり・・・僕、期待していいんですかね?」
「何を?

―・・・・・・・え?」

後ろから抱きしめられた。頭に降ってくる声は小さくて、かすれてて、艶があって、私をどうしようもなく焦らす。


「分かりませんか?」


アレンの回した手の力が一層強くなる。
なに?アレンは何を言おうとしてるの?期待していいのって何?私を抱きしめてるのはなんで?こんなことされたら私だって、

期待、しちゃうよ


「あ、アレン?」
「僕の好きな人は、



『プルルル!』・・・」

机の上にあるアレンの携帯電話が鳴った。なかなか鳴り止まなくて、気まずい空気が漂う。

「出ていいですか」
「・・・どうぞ」

アレンは私から手を離して携帯の方に歩いて行った。なによ、今大事な話じゃなかったんじゃないの。着信音が鳴り止む。電話が始まった。

「もしもし、リナリー?」


ズキンッとまた痛みが走る。知らない女の子と喋ってる。しかもとても楽しそうに。嫌な考えしか浮かばない。

好きな子ってリナリーちゃん?
さっきまで私に回された腕の温かさが急に冷たくなったみたいに、私の中がどんどん冷たくなる。

「うん、また明日。―・・・ひかりお待たせ・・・

ひかり?」

涙がボロボロと落ちてきた。止めようとすれば、すぐに呼吸が苦しくなって嗚咽が漏れる。「どうしたんですか?」と心配して差し出された手も振り払ってしまった。自分で自分がコントロールできない。

「もうやだ。聞きたくない」
「ひかりっ」
「聞きたくない!!」



結局、繰り返す。
答えを聞かずして終わる。


永劫回帰
また同じ道を辿るの?

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