>> 22.過信とハリボテ 「んーイマイチ」 「私も」 昼過ぎだからか、混雑のピークが過ぎたようだった。私達は映画館から近いカフェで少し遅めのお昼をとった。アレンは自分の前にあるパスタをフォークで弄んでいた。もちろん料理の味の話ではない。アレンのパスタの横には数枚のお皿が平積みになっている。彼の食べっぷりで私は少しお腹いっぱいになった。 そう、映画の話だ。 「特に最後のシーン」 「分かる。イマイチグッとこなかったね」 「そうなんですよ、僕もそう思いました」 賛同の意、なのかアレンはフォークを私に向けた。口にはミートソース。「口、付いてる」とティッシュを渡す。「ふいはへん」だって。なんか従兄弟のダイちゃん(小3)みたいだ。 「やっぱり先に小説読んじゃうとねえ」 「なかなか超えませんよねえ」 アレンが最後の一口を放り込んだ。しかしまあ、よく食べること。 「ていうか、」アレンが私を見て言った。 「こういう話になると、僕達話あいますよね」 「まあ、そうだね」 学校違うしね、共通の話題なんてバイトの話か、映画か本か・・・。数えるくらいしかない。 「違う話、してみます?」 なんとなく彼は言ったんだと思う。でも何故か、私はその‘違う話’という響きにドキドキした。「例えば?」私は問う。彼は「そうですね」と少し考えた。 「レンアイ?」 「何故に疑問文?」 「いえ、盛り上がんないだろうなと思って」 「間違いない」 「君は無縁な顔してますもんね」 「失礼だなオイ。 そういう君はどうなんだ」 特に意味はなかった。 彼の返答も私と似たようなものだという自信があった。でも違った。 「してますよ?」 予想外だ。私は「誰?同じ高校の人?」と興奮気味に聞いた。でも、ズキンと鋭い針が刺さったような心地がした。 「教えなーい」 アレンがわざとらしくニヤリと笑った。また、ズキンと痛かった。 「ひかり、ハンバーグ冷めますよ?」 私は薄っぺらい笑顔を剥がさないように努めるので精一杯だ。「そだね」とだけ言ってハンバーグを食べるのに夢中、なフリをした。 「ハンバーグとドリンクバーで1280円になります」 割り勘だろうと判断した20代くらいの女の人が私の分の料金をレジに打ち込んだ。割と安いな。私はカバンをガサガサあさって財布を探す。あれ、財布、財布、どこだ? 「僕が二人分払います」 「かしこまりました」 財布を探す私を横にアレンが私の分のお金を出してしまった。あ、今頃財布が出てきた。 「アレン、私の分払うよ」 「いいんです」 アレンは開く時に鈴が鳴る扉を開けて、手で私に店から出るように促す。私はお礼を言って店の外に出た。空気は乾いていて、風は春の匂いがした。アレンは白銀の髪を透かして笑う。 「この前のお礼。 ありがとうございました」 ううん、また困ったらいつでも行くよ。そう言いたかったのに言えなかった。私じゃなくても、別にいいんじゃないかな。 次は私じゃなくて、 「ひかり?」 「なあに」 「疲れた?」 「疲れてないよ?」 「なんか顔が死んでたから」 「いつも通りだよ」 「あ、そうか。ひかりはいつも死んでるみたいな顔してますもんね」 「してねえよ!」 自分でもなんでこんなに落ち込んでるのか分からない。 まだ間に合う。 まだ、引き返せる。 まだ本気じゃない。 過信とハリボテ 引き返す、どこに? prev//next back |