>> 19.恋の微熱

「37度8分、まだ熱が高いね」

渡された体温計を見た。熱って37度の辺りがいちばんキツい。38度を超えると気分がハイになる。フラフラなんだけどね。

「薬、飲んで」

お水と買ってきたオレンジと白のカプセル2錠をアレンに渡す。

「お婆ちゃんみたい」
「せめてお母さんと言って欲しいかな」

アレンはヘラッと笑って薬を口に放り投げ、水を流し込んだ。私はコンビニの袋をガサガサ。あ、あった。

「あとはこれ」
「なにそれ」
「熱さまシート」
「子供みたい・・・」
「まあまあ、おでこ出して」

箱を開けてあまり冷たくない熱さまシートを取り出した。ペリペリとビニールを剥がした。私は片膝をベッドに立ててアレンのおでこに貼った。

「冷たい」

アレンは目を閉じて少し笑った。気持ちいいらしい。私は手に残ったビニールを手でクシャリと握り締めゴミ箱に捨てるべくベッドを離れようとした。
でも出来なかった。

「アレン?」

アレンが私の手を掴んだから。

とても熱い手だった。そのまま私を引き寄せたので、私はドサッと音をたててベッドに座り込んでしまった。アレンは私の顔をじーっと見つめる。お願いだから見つめるのはやめてほしい。こっちも熱がうつる。

「ちょっと腫れてますね」

私のおでこを、その熱い指が触れた。きっとさっきドアでぶつけたおでこのことを言ってるんだ。私の方はぴくりと跳ねる。

「大丈夫だよ、痛くない、よ?」

出てくる言葉は歯切れがいやに悪い。

「それ貸して」

アレンはおもむろにコンビニのビニールを指した。

「薬?」
「違う。熱さまシート」
「なんで」
「いいから」

説明書でも読むのだろうか。私はアレンに掴まれていない方の手でそれを取って渡した。アレンは熱さま(以外略)の箱をガサガサ。ひとまずアレンの手から解放された私は一安心。
しかし波はまた押し寄せる。

「じっとしてて」

アレンが私の前髪を手で上に上げ、もう片方の手で器用に熱さまを貼った。シートはひんやり。私の顔とは裏腹に。
アレンは私の前髪を元に戻して、手ぐしで整えるように頭を撫でた。

「これでも貼っときな」

病人のくせに。油断ならんなコイツ。逃げるようにベッドから降りて、ビニール袋に入ったポカリを枕の横に置いた。

「喉渇いたら飲んでね。水分はしっかりとって、汗かいたら着替えること。」

私は思いつく限りのことをあげて「お大事にね」と微笑んだ。

「もう帰るんですか」

子供みたいな顔で聞くもんだから、なぜか悪いことをしているような気分になった。

「うん、もう8時まわるし。お母さん戻ってくるでしょう?」
「お母さんはいない」

仕事で遅くなるということなのかな、とその時私は思っただけだった。


「もう少しいてよ」

子供のような目で訴えられた。「寝るまででいいですから」と途切れ途切れ言った。熱が上がってきたのかもしれない。病気の時は言い知れない不安にかられたりもする。

「いいよ」と私が笑うとアレンは安心したように目を閉じた。私は床に座ってカバンから本を出して読み始めた。
でもアレンの呼吸の音で全然頭に入って来なかった。


熱のせい
熱うつったかも。
体がすごく熱いんだ。

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