>> 17.踏み入れる

着いた先はごく普通のマンション。(すれ違った管理人さんみたいな人はとても優しそうな人だった。)エレベーターで5階に上がり廊下を突き当たりまで歩いてたどり着いた。



それから1時間。



「ど、どうしよう・・・!」

本当に来ちゃった、どうしよう。手ぶらじゃアレかなとも思ってゼリーとか買ってしまった。着いたはいいけど、インターホンを押す勇気が出ない。なんでだろう、まるで初めてインターホンを押すようなドキドキ。さっきからボタンに触れては戻し、触れては戻し、の繰り返し。外はもうすっかり暗くなってしまった。もう帰りたい・・・

「あ、なんか鼻がすごいムズムズするっ

くしょい!!」



ピンポーン



「ああ!!」

押しちゃった・・・。

くしゃみの反動でボタンに触れていた手がぶれてしまった。もうどうにでもなれ!ととりあえず乱れた髪を手ぐしで直し、制服のリボンを整え、第一声をシミュレーションしながらドアが開くのを待つ。
が、ドアは一向に開かない。あれ、お留守かな?それとも伏せっているのだろうか。ハッとした。もしかして何かあったんじゃ・・・!やばい、玄関に向かう途中で辛すぎて倒れてたりしたらどうしよう!想像はみるみるうちに最悪の方向へ及び背筋がひやりとした。
私はドアについているのぞき穴(聞こえが悪いな)を覗き込んだ。しかし何も見えない。

「真っ暗だ」

ドアにくっつけた左目を離そうとした時だった。


バンッ

「あだっ」

ドアは勢い良く開いた。

私はおでこを強打した痛みでその場にうずくまった。自分でインターホンを押して呼び出したことは棚に上げて、ドアを開けた人にムッとした。

「・・・どうして」

久しぶりにアレンの声が聞こえた。おでこを抑えながら彼を見上げたら、すごく驚いた顔をしていた。その頬はほんのり赤く、着ているYシャツはシワができていた。

「調子悪いって聞いて」
「君は僕のストーカーだったんですね、驚いた。」
「違うよ!店長に頼まれたの!ほら!」

私はコムイさんに渡されたアレンの私物一式を買ったゼリーといっしょにずいっと押し付けた。

「あ、僕のかばん」
「ケータイとか全部入ってたから」

穴が開くくらいにアレンに見つめられる。しかも何も言わない。いつもなら「なに人のかばん勝手にあさってんですか」とか言ってチョップされるのに。なんか、なんか!調子狂う。

「アレンさん?」
「・・・わざわざ、ありがとう。」
「おぅ!?あ・・・うん、どういたしまして」

あの鬼がありがとうって言った!そんなに熱高いの?だってそんな、あのアレンが!え?明日あたりコロッと死ぬんじゃないかコイツ。

「なんか失礼なこと考えてましたよね?」
「いや?(あ、うわずっちゃった)」

アレンがまたジーッと私を見る。やめてそれ、心臓痛いんだってば。

「まあ、とりあえずあがったら?」
「え、」
「そこ、寒いでしょ」
「・・・あ」

アレンはコンクリートの冷たい床を指した。そういえばうずくまったままだった。

「パンツ見えてる」
「ぎゃあ!!」

慌てて立ち上がって睨んだ私をアレンは力なく笑った。不謹慎にも風邪なアレンを艶があって(いや、普段からあるけど)かっこいいと思ってしまった。

「おいで」

アレンは指をクイクイと曲げて手招きをした。
タイル敷きの玄関に足を入れたら人の家の匂いがした。靴、少ないな。
五感からいろんな情報が一気に入ってきて2:8の比率で不安と好奇心が入り混じる。

新大陸に第一足を踏み出す冒険家の心情ってこんな感じかな、と今日習ったばかりの大航海時代の偉人達に思いを馳せた。

小さな冒険
なんとなく、彼がいつも履いている靴の隣に私の靴を揃えて置いてみた。そしてひとりで少し恥ずかしくなる。

やば、私も熱あるかな


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