>> 15.君が来ない

せっかく私の中で誤解が解けたのに!勇気を出してここまで来たのに!

「・・・いないじゃん」

いつものドアを開けても彼はいなかった。


私はがっくりしたように、でもどこかで安心したように肩の力を抜いた。実は今日ここに来るまでの放課後の学校で‘シゼンな挨拶’の練習をした。誰もいない教室でアホみたいに練習をした結果、携帯を忘れた神田(ていうか、あいつ携帯忘れすぎだろ)には可哀相な物を見る目で見られ、何故か戻ってきたラビには「あんまり思い詰めんな」と肩にポンと手を置かれ、やっぱり可哀相な(以下略)で見られた。

・・・ちなみに生まれた‘シゼンな挨拶’は

「やあ、アレン!君の今読んでる小説の犯人は被害者の後妻だよ!」

である。彼がいないと分かって冷静さを取り戻し始めた今、本当に言わなくてよかったと思う。人って思い詰めると何を考えるか分からない。うん、だから世の中には犯罪が沢山・・・あ、話が逸れた。

とにかく、早くアレンに神田のことで謝らなければ。思惑は核心へと向かうのだ。


*****


「え、休み?」
「うん、そう。アレン君火曜日にここで倒れてね。まあただの風邪だったんだけど、まだ良くならないみたいだよ」

店長はコーヒーを飲みながら私に言った。今日は金曜日。ちなみに神田の件があったのは、ちょうど、アレンが倒れた日、火曜日だった。

私もその日いたのに、なんで気付かなかったんだろう。

「倒れてすぐに李桂にアレン君の家まで運んでもらったんだよ。だから荷物も全部そのまんま。」

店長が机の下からアレンの荷物(かな?)を出した。そっか、だから私知らなかったんだ。

私の中の疑問は完全に解けた。よかった。でも、ちょっと心配だ。もう3日近くになるし、アレン大丈夫かな・・・

「アレン君のこと、心配?」

店長がニヤニヤと笑う。

「いや、そんな!あ、でも心配ですけど・・・」
「ふーん?・・・あ!」

店長は何か思い付いたように机の上で何かを書き始めた。しかも鼻歌まじりで。まだバイトを始めて日は浅いけど、何か嫌な予感がした。そして書き終えたメモとアレンの荷物を私に差し出した。

「はい!」
「はい!って・・・え?」
「これは店長の命令だよ、ひかりちゃん。」
「はあ、」
「これをアレン君の家に届けてあげなさい!」
「はあ・・・って、えぇ!?」


こうして、私が機械に通したタイムカードは出勤から約10分で退勤の表示をつけることになる。


君は来ない、私が行く
私のバイト時間10分、



―――――――

そうです、店長はあの巻き毛の方です。

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