>> 11.幼なじみ

俺はうるさい奴が大嫌いだ

「神田〜!!聞いてよ!」

たとえそれが‘幼なじみ’という類の中に入っているとしても。


「ねえ!神田ってば!聞いてんの〜?」

「うるせえ!ちんちくりん!」

ドカッ

「いったあ!!」

鬱陶しい以外の何物でもない。



――――――



物心ついたときにはもうひかりは近くにいた。うざい奴だと思いながらも、うっかり高校までこの腐れ縁を持ち越してしまった。

ひかりの騒がしさは今に始まったことではないが、どうも最近輪をかけたようにひどくなっている。俺にとっては迷惑な話だ。


「バイトなんて行きたくないよ〜。」

「元気出せよひかり〜。」

「あいつ鬼畜なんだよ!腹黒なんだよ!笑顔は真っ白なのに!!」

「落ち着けって。なあユウ、なんとかしてさ。」

「なんで俺なんだよ。」

「だって幼なじみだろ?ひかりのことよく知ってんだろー?」


俺の中で‘幼なじみ’という言葉が引っかかる。確かにひかりはガキの時から知ってるが、馴染んだ覚えは微塵もない。横目でひかりを見ると足をバタつかせて文句をたれている。なんだコイツ。


「神田ぁぁー」

「うるせえ黙れ。」

「ひどい!!」

俺はめんどくさいのが大嫌いだ。アイツが元気を出す方法なんて知るか。俺は逃げるように教室を出た。



*****



俺は教室に向かっていた。時刻は午後4時。携帯電話を忘れたことに気付いて引き返しているところだった。そしてその誰もいないはずの教室に入ろうとした。

が、俺は厄介なものを見てしまう。ひかりだ。しかももっと厄介なことにアイツは、


「・・・・・おい。」

「うわっ!なんだ神田か〜。びっくりした。」

「悪かったな。」


本当だよ、と笑ったひかりの目尻には涙の跡。なんだよ、泣いたのかコイツ。泣くほど嫌なのか?


「バイト、そんなに嫌なのかよ。」

「・・・・・え?」


目をパチパチさせて俺を見た。なんだよ、俺が心配するのがそんなに珍しいか。やっぱり慣れないことはするもんじゃないと後悔した。

ずずっと鼻をすすって窓の外を見たひかり。その横顔が妙に大人びて見えた。コイツも成長してるんだな。うるさいけど。ひかりは少し考えた顔をしてすぐに力なく笑った。


「んー、まあ鬼畜なりに優しいとこもある・・・」

「・・・へえ。」

「と、信じたい。」

「願望かよ。」


歯を見せて笑った。アホみたいに笑いやがる。こういうところは昔と何も変わってない。でも、


「まあ、頑張るよ。」


昔より女らしくなった。


「ぎゃあ!!もうバイトの時間だった!」


うるさいけど。



****



「なあなあユウ〜」

「・・・なんだよ。」

「ひかりのバイト先の鬼、見たくねえ?」


ラビがそう言って俺を誘ったのはその翌日の夕方だった。



幼なじみ
馴染んでねえよ。



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