>> 07.気が合うね 突然、彼は思い出したように手を見た。本がないのに気付いたらしい。 「僕の本知りません?」 「ああ、ここだよ。」 私は手元にある2冊の本に目をやる。おもしろいよね、これ。と彼の本を渡す。 「・・・?」 彼は自分の本と私の本を交互に見て、顔に疑問の表情が浮かぶ。 「私も同じ本読んでるんだ〜」 「え、最悪。」 「どういうことだい。」 彼はあからさまに嫌悪を示した。全く失礼な人だなあ。 「君がこの高度な推理小説を理解できるとは到底思えませんね。」 「私だってこれくらい読めるよ!!」 「君はゲロ甘な恋愛小説が好きだと思ってました。」 「ゲ・・・、まあ恋愛小説も好きだけど。」 彼はふーん、と言いながら私が渡した小説をパラパラめくる。 「これ、君の本ですよ。僕はまだここ読んでませんから。」 と私の本だと判明したそれは返された。私はその時、一つの考えが頭に浮かんだ。が、続きは言わないで下さいね。と釘を刺されたので断念した。 「ね、私、犯人は後藤だと思うの。」 彼は顔を上げた。今までにないくらい輝いた目をしていた。 「不服ながら、僕もです。」 「だよね!今は目立たないけどさ。」 私はだんだん楽しくなってきて、夢中で喋った。彼もきっと同じ、な気がする。空気が軽くなったから。 彼は突然言った。 「木村さん。」 「・・・・なに?」 私はまた喋りすぎです、とか憎まれ口を叩くのかと思って少し身構えた(なんかこう、精神的に) 「僕はアレンです。」 「・・・・・はい?」 いや、知ってるよ。と言おうと思ったけど、怖かったのでやめた。 「君は僕の名前を呼んでくれませんよね?覚えてないのかと思って。」 ああ、そういうことか。私はちゃんと覚えてるよ、と笑う。知ってたけどなんとなく呼べずにいたのだ。恥じらい、というやつだろうか。 「名前、呼んでくださいよ。」 「あ、うん。」 「今、呼んでください。」 「い、いま?」 「はい、今。早く。」 何故に今? 彼は猶予をくれない。 「ア、アレン君。」 「君、いらない。」 彼の敬語がはずれている。表情はいたって真面目。 「アレン。」 声が震えないように、喉に全神経を集中させる。 「はい。」 彼はニッコリ笑った。それは私が怖いと思う、取って付けたような笑顔ではなくて。 きっと彼の本当の笑顔だった。どうしてしまったんだろう。彼も、私も。 「だから、あの・・・」 彼の頬に橙色以外の色が見えた気がした。 「僕もひかりって呼んでいいですか。」 頷くだけで精一杯 私も笑った。 アレンさんの態度が激変したのはご愛嬌← prev//next back |