愛したい愛されたい愛してはいけない
人には誰だって、知られたくない、知られてはいけない秘密や秘め事がある。 俺にも、――――勿論、小十郎にだって、あって当たり前だ。 それを否定する事は出来ない、そもそもする気も無い。無いのだが、
「Shit……」
この、どうしようも無い胸の燻りだけは、それを否定したいと俺の感情を圧迫し続ける。ぎちぎちと音を立てて軋んでいるようにさえ感じる、この想いだけは。 本当に小さな、些細な事。当たり前のように、小十郎に縁談が来た。ただそれだけに過ぎないことだった。
「政宗様、申し訳ありませぬが、明日一日、暇を頂けませぬか」
「Ah?別にかまわねえが……随分急な事だな、小十郎」
「申し訳ありませぬ。家の者が縁談を進めていたようで……」
縁談。その言葉に何も言えなくなった。思考こそ動いていたが、何も言えない。 良かったじゃねえか、そろそろ身を固めねえと、お前もいい歳だからな――――そんな言葉を言えば良いのだろう、分かっていても、言葉として存在させる事が、どうしても出来なくて。 比較的大きな声で政宗様、と呼ばれて、漸く現状を理解した。そうだ、今は小十郎とのTalking timeじゃねえか。Thinking timeは、後で幾らだって作れる。 取り繕った笑みを浮かべて、謝罪を述べた。小十郎は腑に落ちない顔をしてたが、何も聞いては来なかった。
いっそ、聞いてくれたなら。 俺はこの感情を、一方的にとはいえ、吐露する事が出来ただろうに。
「何か問題があるのならば、この件は断ります」
「No program.……何も、ねえ」
俺はとんだ嘘吐きだ。問題?そんなん、山積みに決まってる。 そうでございますか、では、お願いいたします。そんな常套句を紡いで、小十郎は部屋を出た。呼び止めようとした手は、行き場を失って力なく膝に落ちる。 独眼竜が聞いて呆れる。これじゃ、尻尾を切って逃げることも出来ない、ただの臆病な蜥蜴じゃねえか。 ハッ、と浮かぶ笑みは自嘲。"分かっていた"ことに対する失望が、それを更に大きくさせていた。
密かに抱いた好意は、吐露すべきでないと最初から分かって、殺した。殺した、つもりだった。心のずっと奥深く、例え最期であっても、表に出さないように、厳重に。幾重も、幾重も。 そして、ソレをあっさりと壊してしまえるほど、その感情は俺を置いて成長していたなんて。とんだ笑い話だ、Comedyにもなりゃしねえ。
だからこそ、いい機会だ。この感情を捨ててしまえ。目を閉じて、ただの思い違いだと確信すればいい。 瞼の裏は闇にならない。ちかりちかりと蠢く"何か"が俺の感情ならば、ソレを消すように、闇を見据えろ。
「小十郎」
――――呼んだ名前に、返事は、無い。
愛したい愛されたい愛してはいけない (忘れてしまえ、) (消してしまえ、) (何もなかったと)
title:上下主従10のお題 配布元:Abandon
なんというシリアス。なんという俺得。← 小十郎側も書きたい!とか思ったんですが、ソレやると小十郎がきっとロクでもないことになる……←
111004 back
|