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いただいたリクエストで即興

(2014/03/17)


こちらの診断結果にそって、ツイッターIDに「i」「4」が入っている方からのリクエストを賜りました。
ツイートがまたがってしまったのでまとめます。
今回は3人の方からリクエストをいただけました!
それぞれの冒頭にあるのがいただいたお題です。


「花が咲いたので、/むかしのはなし/また明日?」の三題噺

 たぶん彼女は眠ってしまった。
「おやすみ、おやすみよ」
 Iは閉じゆく瞳にそう告げて、彼女のつる草の髪に指を通し、それから、話の続きはいつになるのだろうかと考えた。
 彼女が目覚めたときが彼女にとっての明日だ。けれどそれはIにとってはいつのことだろう。正しく一日後の明日でも、九年後の明日でも、Iは構わないのだけれど。
 心配なのはただ一つ、それまで水やりを欠かせないということだけ。Iはどうしようもなく三日坊主だったからうっかり彼女のことを忘れてしまえば、少し怖いことになる。
 それでもしかし、平生から立ったまま眠ったように生きている彼女のことだから、事も無げに目を開けて、少し目を閉じただけだと言い張るに違いない。それから前の話と全然つながらない話を無理くり再開して、思い出せないような未来に彼女は目覚めるのだろう。
 それまでIは彼女の髪に絡みついたこまかな木の実を一つ一つ指でつぶす。そのうち彼女の薄く開いた口から古代の蔓が伸びるから、Iは花のところだけを丁寧にをむしって口に運んだ。クチナシの花は嫌になるほど甘くてIは閉口した。



「猫」

 だんだら模様の背中に足を止めた。
 ねこ、ネコ、猫。理由もなく楽しくなって、屈んで目線を合わせた。「なんだこいつは」と構える相手に逃げられる前に、両手を広げた。何も持ってないよ、と。
 すると向こうは目をそらした。「なにもないのか、よかったあ」か「しけてやがんな」かどちらの素振りかはちょっと見分けがつかない。触れるほどに近寄ると逃げてしまうのは経験で知っていたから、あくまで距離は保ったままだ。
 しかし向こうはいつも、こちらのことなんていないように扱うから、ばあ、と欠伸をする大口に、不意に指を突っ込んでみたい。あとはあれ、伸びた背のくぼみに噛みついてやりたくなる。腕と脚を押さえ込んでがぶりと。猫かぶりならぬ猫まるかぶり、なんて。これじゃ虐待かしら。猫が人を噛むのはよくて逆は駄目だなんて。
 不穏な気配を察したのか、猫はまん丸の目で睨む。こちらも負けじと睨み返してやる。じりじりと焦がれる時間。隙を見せたら負ける、たまらない緊張感だ。と、対面から人が。馬鹿、こっちに来るな。一瞬、目を離した。それはどうしようもない隙だった。
 ……猫はすばしっこくていけない。


「夜の帳」

 時計が逆回しになる夜はあれを探さなくちゃいけない。大体あれは机の下だとか天井のすみっこから垂れ下がってる。急がなきゃいけないのは本当だけど、どこの家のママも言ってるように、引く前にちゃんと寝支度を整えとくのはもちろんだ。ほんと真っ暗になるからさ。
 ……あれって何かって?
 冗談。
 題にもあるだろう? 帳だよ、とばり。夜の帳。
 馬鹿にしちゃあいけねえよ。逆回しをそのままにしておくとあんた、7時の朝食が午後7時の朝食になっちまう。それじゃあいけねえよ。昼夜逆転だ。朝はどこいっちまうんだ?
 お宅のうちにもあるだろう? 探してみなって。時計でも、帳の紐でもどっちでもいいからさ。さっきも言っただろうけど、場所を見つけたらまず寝支度。いつでも布団にもぐれる状態で紐を引くんだぜ。夜更かししてるとたまーに時計が逆回しになるんだよなあ。ほら、確認してみろってば。
 時計の針、どっちに動いてる?――デジタルだあ? そりゃつまんねえな。でもよ、やっぱり逆回しになってただろ。よく当たるんだ。こういう夜にはまつげの根元がぴしぴしする。
 寝支度は? そりゃあいい。
 それではお嬢ちゃん。いや、坊ちゃんか? 夜の帳を引きたまえ。
 良い夢を。おやすみ。



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