柔らかい風が頬を掠めた時、アメリカが口火を切った。
「俺もヒーローになれるかな」
何とも間抜けたことを至極真面目に言ってのけた彼にゆっくりと口に孤を描いて微笑んでみせる。
「なれますとも。あなたにはその器がありますよ」
「本当かい?」
「あらあら、自負していらっしゃるんでしょう?」
「もちろんっ」
自信たっぶりに胸を叩いたアメリカのくせ毛が元気よく揺れる。子供のようだと思った。
ああ、こんな子に。
「ヒーローになったらどうしますか。捕われの姫でも助け出しますか」
「それも魅力的だね」
受け流すようにくすりと笑われて、全く気になりもしなかったが聞くのが礼儀だと思い催促するように小首を傾げた。
「…ではなにを?」
アメリカは真っ直ぐこちらを見たまままた笑った。こちらでは珍しいブルーアイが好きじゃなかった。
「大切な人を守るよ」
「…はあ」
濁したような言い方が面倒でぞんざいな返事になってしまった。興味の無さを具現化したような声だった。己の失態を叱咤して、仕切直すように笑った。
大切な人
国民?家族?恋人?友達?
「君だよ」
「ねぇ日本。守るから、君に危害を加える敵を七倍返しでやっつけるよ」
力強く、けれどどこまでも子供のような笑みを浮かべるアメリカに思わず息を飲む。大切な人の矛先が己に向けられたことに驚いたのも一瞬のこと、すぐに頭が冷えていく。
「…それは上司が決めたことでしょう」
「俺の意思でもあるんだ」
「………」
即答したアメリカの視線から逃れれば負けてしまうような気がして、無表情にアメリカを見つめ返す。焦ってなどいないのに、瞳が揺れてしまう。
「だから、頼って欲しいんだぞ。もう一人で考えこまなくていい。アメリカに、俺に、頼って欲しい」
「俺もヒーローになれるかな」
君の。
隠れた言葉が苛々を募らせていく。
「若造が…」
貫いていた無表情は崩れ、眉間に皺を寄せて唾を吐き捨てるように漏らした。それにアメリカは嬉しそうに笑った。
「君のそんな顔初めてみたよ!」
「傍にいるからもっと色んな顔みせてね」
己をズタズタに傷付けた彼が、筋違いにも救いの手を差し出すように手を伸ばしてきた。