「お前最近また太ったんじゃないの?」
久しぶりに会いに来たフランスに当たり前のように抱き抱えられていたアメリカは人肌の温かさと大人の腕の中という安心感でうとうとしていたがフランスのその一言で意識を取り戻した。
「せ、成長しただけだぞ!」
「えー」
ニヨニヨといやな笑いを浮かべるフランスはアメリカの言葉を信じていないようで、アメリカはむっとする。
「ほんとなんだぞ!背も伸びたし…」
「そっか。お前成長早いもんな」
悪かったとわざとらしく目尻を下げて反省してみせたフランスがムキになっているアメリカを宥めるように興奮して体温の上がった彼の柔らかな頬にちゅっとリップ音を鳴らしてキスを落とした。ほんとなんだぞともう一度念を押したアメリカはいじけたようにフランスの首元に深く顔を埋めた。どうすれば大人が優しくしてくれるか本能的に理解した、甘えることにすっかり慣れたアメリカにすっかり絆されたフランスは日の光りでキラキラ輝く金糸をくしゃりと掻き上げた。何度となくそれを繰り返していると、落ち着いたのかアメリカがうつらうつらとし始めた。その様子にフランスは笑みを深くし、ふと思い付いたことを口にした。
「この分だとイギリスがお前を抱っこできなくなる日も近いな」
「っ!」
お兄さんはあいつと違ってたくましいから大丈夫だけどねとさりげないフランスからのアピール(ウインク付き)はアメリカには届いていなかった。勿論眠ってしまったからではない。眠りの妖精はアメリカを眠らせられなかったらしい。
「やだぁ!フランスきらいー!」
がばっとフランスから離れたアメリカ突然じたばたと暴れ出した。その瞳からはぽろぽろと涙がこぼれている。
「え?ちょっ、急に暴れないで!危ないって!ってゆうか嫌い!?なんで!」
あまりにアメリカが暴れるものだから、フランスは思わずアメリカを抱えていた腕を解いてしまった。そのままアメリカは重力に伴い床に落ちた。幸い頭を打つことことはなかった。しかし突然の衝撃に一瞬ぴたりと泣き止んだアメリカであったが、フランスが次に瞬きをした時にはアメリカは驚きだとか痛みだとか先程フランスに言われた言葉だとかがぐるぐるに頭の中で掻き混ざってわんわんと泣き出した。あわあわと困るフランスはなんとか謝ってアメリカを宥めたわけだが、後日イギリスに殴られることになる。
*
「だっこ」
イギリスがアメリカを訪れたその日、アメリカの第一声は「イギリス!来てくれたんだね!」ではなく、先の言葉であった。そんなに寂しかったんだなと随分会いに来れてなかったことへの罪悪感と甘えられていることの嬉しさをしみじみ感じながら何の疑問もなく愛しいお子を抱き上げたイギリスはそれからアメリカが全く離れてくれなくなることをまだ知らなかった。
アメリカはかれこれ四時間とイギリスと密着していた。料理をふるまおうとイギリスが調理中は危ないからとアメリカを降ろそうとするといやいやと首を振り細い足をイギリスの体にきつく絡ませてせて頑なに離れようとしなかった。料理はいいからこのままがいいと言う可愛い願いを無下に出来るわけもなくイギリスは料理を諦めた。その時もイギリスはさして気にしていなかった。イギリスが異変に気付いた時。それはトイレに行きたくなった時だった。その旨をアメリカに伝えると案の定俺も着いて行くと頼んできた。しかし流石にそれは恥ずかしいのでイギリスがすぐ戻るから待ってろ、な?と安心させるように顔中にキスを降らしてやればアメリカは少しむくれながらもすぐ戻ってきてねと釘をさして渋々了承した。降ろしても尚残っているアメリカの体温が消えない内にとイギリスは急いでトイレを済ました。きっとイギリスのトイレ最短記録の自己ベストタイムをたたき出す速さだっただろう。だがしかし、イギリスがトイレから戻った時にはアメリカは半ベソ状態だった。イギリスと舌ったらずに呼んで足に絡み付いてくる。そこでイギリスはようやくアメリカの様子がおかしいことに気付いた。
泣き出してしまいそうな小さなアメリカに目線を合わせるために膝を折ったイギリスはどうした?と成るべく優しく尋ねアメリカの右頬を撫でるように片手を添わす。アメリカはイギリスの手に甘えるように頬をすり寄せ、先日フランスが来たときのことを話した。
話し終えた時イギリスは堪らないといったようにアメリカをその胸に抱き寄せていた。サラサラと頬をくすぐる金糸に唇を落として「ばぁか」と喉を震わせて笑ってアメリカの鼓膜を揺らした。
「確かにお前は成長が早いし、いずれ俺も抱き上げることが出来なくなる日が来る」
イギリスの腕の中でアメリカの体が強張ったのが分かった。それだけでアメリカが今どんな顔しているのかが想像出来た。イギリスはそれにも笑って答えて、「聞けって」とアメリカから離れるとスカイブルーを覗き込んで愛しい愛しいという感情のままに微笑んだ。青が揺らいだ。
「イギリス…」
「抱き上げてやれなくても抱きしめることは出来るぞ。こうやってな」
そう言うと先程よりも強い力でアメリカを抱きしめた。それから少し体を離してアメリカと視線を交わす。
「それじゃあ駄目か?」
わざとらしく目尻を下げイギリスは悲しそうな顔をする。アメリカははっとして首をぶんぶんと何度も横に振り、そして眩しいくらいの屈折のない笑顔をイギリスに見せた。
「ううん!嬉しい!」
アメリカは吸い込まれるようにイギリスの胸に飛び込んだ。隙間を埋めるようにぎゅうぎゅうと抱き着けば、互いの鼓動が近く感じられた。
眉毛の刷り込みは始まっている