硝子とご飯を食べてるだけ(硝)


10代女子の食欲を侮るなかれ。大蒜の効いた醤油ベースのからあげ、ほろほろになるまで煮込まれたビーフシチュー、ほかほかの白米と相性抜群の生姜焼き。どれも大好物だし、夕飯に出ればおかわりの常連で胃がはちきれそうになるまで食べるほど――だったのに。
「う………」
「あ。出たよいつもの」
任務の直後に食べる肉がひたすらに苦痛。見ていられないほど損傷の激しい呪霊や、手に残る肉感のことを思い出すとどうしても肉を食べる気になんてなれるはずがない。これでもだいぶ慣れてきた方だが、一級の呪霊を倒した後に焼き肉に行く悟と傑の神経はきっと一生理解できない。今日は座学だけだから張り切って生姜焼きを作って持ってきたのに、二限に応急処置の勉強と称して「誰でも分かる!反転術式医療」なんてビデオで呪術師のあからさまな傷を見てあえなく撃沈。小学生の時に見たはだしのゲンの方がまだ耐えられた。
「硝子はああいうの見ても平気なの」
「ん?ああ、全然平気。っていうか人体に興味なかったらここにいないから」
目の前で硝子が、コンビニで買ってきたネギトロ丼を頬張る。彼女は容赦がない。私の初任務の後に悟がネギトロ丼を食べているのを見てトイレにダッシュしたことを忘れたのか。だってほら、ネギトロってミンチじゃん……
とりあえず白米と高野豆腐をちまちまと口にする。豆腐からじゅわりと出汁が口に広がった。タンパク源はこれで確保。愛してる高野豆腐。一方で一切箸を付けられていない生姜焼き。が、ひょいっと宙に浮かんだ…のではなく硝子の箸によって捉えられ、そのまま口に運ばれた。
「あ」
「味見」
もぐもぐと硝子の口元が動く。煙草を咥えていることが多い硝子がこうして何かを食べていること自体が珍しい。じっと見つめること数秒、教室の中で続く沈黙。
「おいしいじゃん」
「よかった。なんなら全部食べて」
え、普段は小食なのに超食べるじゃん。まぁ頭使うとお腹空くよね。そうだ、彼女は仮にも医学部生のたまごなのだ。栄養は必須である。
「これ自分で作ったの?お嫁に行けるレベルじゃん」
「それは照れるって」
「悟も傑も喜ぶよ」
「冗談はよしてってば」
けらけらと女子二人の笑い声が教室に響く。この調子だったら、任務直後の肉嫌いもそのうち克服できるかな。
「週末私の部屋来てご飯作ってよ、最近カップ麺ばっかりでさ」
「それは大変。なんなら今夜でも」
「じゃ、今夜来て。そのまま泊まってきな」
今日は寒いから鍋にしようか。白菜と鱈とマロニー。豚バラは硝子に買ってきてもらうとして。寝巻とパックも忘れずに。シャンプーは硝子から借りよう。急遽決まった男子禁制の女子会に胸を躍らせながら、午後の授業に臨むのだった。






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