貴女に選ばれたくて(冥)


男子って怖い。急激に伸びた身長に反して言動が幼稚なところとか、自分たちは何もしないくせに、私たちを品定めするような目で見て好き勝手言って自分の権力を見せつけた気になるところとか、自分が不利になれば力で訴えるところとか、馬鹿みたい。だから私は男が、ずっと嫌い。
「名前ちゃんってちょっと変わってるよね。恋愛とか興味ないの?」
中学生の頃に友人が、休み時間にトイレの洗面所でスカートの丈を短くしながら言い放った言葉。早熟で、交友の広い彼女には私の気持ちは分からないだろうという諦めと同時に、遅れているという事実を突きつけられ、おとなしく傷付き、悟られないように笑顔でやり過ごすしかできなかった、思春期を自覚したあの日。
◇◆◇
ふわりと白縹の毛束を手に取り、櫛を通す。普段は艶のある、きっちりと結われた髪が乱れている。その原因が先刻までの行為だと考えただけで、震え上がる。きっと私は神妙な面持ちになっているのだろうけれど、目の前の冥は黙って笑顔で待っていてくれる。私はこの二人だけの静かに流れる時間が、たまらなく好きだ。ついさっきまで私だけを映していた右目を、私が隠す。私によって、二人の秘め事を終える、そんな儀式。
「どうして名前は毎回こうしてくれるんだい?」
「冥がいつも私を満たしてくれるから、せめてものお礼よ」
「あなたもやるようになったねえ、はじめての時に泣いていた時とは大違いだ」
「その話は恥ずかしいからよしてよ」
くすくすと笑いながら、向きを変えて櫛を通す。あの時、確かに私は泣いていた。でもそれは決して痛いとか怖いからではなくて、冥と繋がれたこと、冥に認められたことによる安心感が鳩尾に広がって満たされて、じわりとにじみ出たものだったと、思う。
相変わらず男は嫌いだけど、私は女の子に選ばれたかったのだと、今更ながら気付く。私は私が美しいと思う人が好きで、そんな人に選ばれたかったし、選ばれた。それが冥だった。冥の美しさも強さも、全部独り占めできたらいいのに。さらさらになった毛先を名残惜しむように楽しんでから、櫛を置いた。
「はい、できた」
「ありがとう。名前がやってくれるといつもよりも指通りがよくなる気がするの」
正面に向き直ると、右目が隠れた冥が毛先を撫でていた。どうかその髪が、他の誰にも触れられませんように。私はその姿を、黙って見つめていた。





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