吹奏楽部入部

緑間side


子供の頃からやっていたピアノの息抜きに、中学時代はバスケをしていた。バスケは楽しくないこともなかったがバスケに中学時代を捧げたといってもいいほどにはハマっていたと思う。
たが、流石に高校で中学のときのように、あの練習地獄を続けたいとは思わなかった。
走って走って走って筋トレして、吐いて、シュートを打ち続けて、今思うとなぜあそこまでできたのかと、ほんとに不思議に思う。
まぁ、そんなことから、俺は帝光高校を受験する時から考えていた吹奏楽部への入部を決めた。もともとはピアノが好きだというのもあって、他の楽器への理解や知識も得たいと思い、それに一番最適だったのが吹奏楽部だった。
入部届け。吹奏楽部。緑間真太郎。
入部届けにそう記入して、柄にもなく少し緊張しながら教務員室に向かう。
先生にその紙を提出した時のあの渋い顔は今でも忘れない。
あの時はなにも気にしていなかったが、今ならその理由がわかる。
かつて帝光高校の吹奏楽部はかなり有名な部活だった。でたコンクールすべてで金賞をとり、全国大会など常連中の常連。
そんなかつての栄華は、今は見る影もなかった。

部活説明会のある日に音楽室へ向かってみれば、そこにいるのは俗に言うギャルという女どもと、その女どもに対し怯えながら隅の方にいる女子生徒たち。
説明会が始まる時間になって、始まる説明はすべてギャル達によって遮られ、邪魔され、正直我慢の限界だった。
だが、中学時代の部活の主将に「緑間はそうやってすぐ見た目で怒るから駄目なんだよ。」と、いうこの場にあってるのかどうかよくわからない言葉により、俺は練習が始まるまでは、と我慢をした。
だが、それも無駄に終わったのだ。
案内された吹奏楽部専用の音楽準備室。中をみてみればろくに手入れのされていない楽器、楽器、楽器…………
数個、まだ手入れをされているようなものもあるが、それでも、この状況は酷かった。俺だけではなく、俺以外の新入部員の生徒も絶句をしていた。
俺は気づくべきだったんだ。新入生歓迎会のときにまともな演奏を見せなかった吹奏楽部を見て、気づくべきだったんだ先生のあの渋い顔を見て。
「なんなのだよ、これは……」
「え、えっとね、これから掃除をしようとしてたものでね……」
気の弱そうな先輩は俺達に対し必死になって弁解をする、
だがその姿はどうしてもギャル達を怒らせまいとしてるようにしか見えなくて、俺は余計に腹が立った、
「掃除とか、そういう問題じゃないのだよ、これは!手入れもされず、こんな汚いところで楽器を保管するとはなにごとだ……!それでも吹奏楽部なのか?!」
「あ、あのね、その………」
「部長は誰だ、顧問は?なんだこのていたらくは!」
「そ、その………」
「あのさぁ」と気弱そうな先輩の言葉を遮るように、ギャル共がこちらに声をかけてくる。
「後輩の癖になんでそんな偉そうなわけ?」
「そうだよ、泣いちゃったじゃんその子ぉ!!」
そう言ってゲラゲラと笑うその姿は、ギャル共が俺達と同じ人種であることを疑いたくなるほど下品で、さらに腹が立ってくる。
「偉そうとかそういうことをいうなら、まず先輩らしくこの楽器をどうにかしたらどうだ」
「先輩を、お前だって超ウケるんですけどぉ!なぁ!あんま生意気言ってるとさー!先輩にいじめられちゃうよ?」
「だからなー!まじムカつく!!」
「後輩は黙って先輩のいうこと聞いてろよ!!」
「貴様らはそれでも吹奏楽部なのか?」
「はぁ?!!なにいっての?吹奏楽部に決まってんじゃん!!」
ゲラゲラ、ゲラゲラ
ギャハ、ハハハハハハ
耳を抑えたくなるほどの下品で聞き苦しい笑い声。
そんな声を聞く中で俺は、ある決意を固める。
「もう、結構なのだよ」
「あぁ?!なにが結構なんだよ?!!」
「変えてやる」
「あ?」
「貴様らを追い出して、この吹奏楽部を昔の変えてやるといってるのだよ!!!」
下品な笑い声は止まった。
シーンとあたりは静まり返る。
「お前らを吹奏楽部とは認めない!先輩とは認めない……」

「必ず!この吹奏楽部を変えてみせるのだよ!!!」

俺の決意はこの音楽室にしっかりと響きわたった。
それに気分を悪くしたのか「チッ」と大きく舌打ちをして、ギャル共が俺を睨んでくる。
「まじで調子乗ってんな」
「1年生だからって許してもらえると思うなよ?」
「なにを許してもらうというのだよ。俺はなにも悪いことなどしてないのだよ」
「あぁ?!!!ふざけんなよ?!!」
ガタガタと立ち上がると、馬鹿みたいに俺の周りによってくる。
威圧しているつもりなのだろうが、残念だな俺は195cmある。並大抵のしかも女にそんなことをされても怖くもなんともない。
「俺は、なにも、ふざけてなどいない」
力強く俺がいい返せば、少し怯む。
だがしかし、それがプライド的に許せなかったのだろう、ギャル共の一人が手を上げ手を挙げた、

「調子にのってんじゃねぇえええよ!!!」
ゴッ!!という鈍い音。
じんわりと口の中に広がる鉄の味。俺はギャルの拳をよけずに受け止めた。よく、俺の顔に手が届いたな、ゴリラか貴様はと感心しつつ、俺はそのままギャル共を睨み返す。
今度こそ、それに怯んだギャル共は「付き合ってらんねぇー!まじふざけんなよ!」とか、頭の悪そうな捨て台詞を吐いて、音楽室から出ていった。

ふぅ、と息を吐けば青い顔をした先輩が俺の方へとよってくる。
「だ、大丈夫?!!ご、ごめんなさい、いま冷やすものとか、えっと、えっと、持ってくるからね!」
他の先輩方や1年生も少し慌てた様子で俺の方を見てる。
「大丈夫です。それより、さっきは取り乱してすいませんでした」
「えっ?!!さ、さっき?」
「ええ、それと俺はさっき言ったように、必ずこの吹奏楽部を変えてみせます。そのために人事を尽くさせてもらうのだよ。」
「え、えっと」
「では、少し保健室に行ってくるので、失礼する」
まだ、混乱している様子の音楽室を後にして、俺はからからからと扉を閉める。
そして、その瞬間床に膝をつく。
正直に言おう、あのギャルのパンチクソ痛かったのだよ。
ほんとに女か!!!ゴリラなのではないのか?!!!!!とか、そんなことを思いながら。俺は保健室へと痛みを我慢しながら向かった。


《続く》


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