節分とバレンタイン!



「あのよぉボス…。」

これはねぇよ。
と、普段より幾分か高い声でロクは言うと、忌々しげに事の真犯人であろう我等がボス、ルジェントを睨み上げた。
声変わりが来る前の、それこそ幼子特有の高いロクの声にルジェントはそれはもう楽しそうに笑う。
ロクはメグの腕の中で深く深く溜め息をついた。
問題はそこだ。
何故ロクがメグの腕の中なのかと言うと、いや正しくは抱えられている。自身と同じく小さくなったしずくと共に抱えられているのだ。
メグに抱えられたロクとしずくは5歳ほどの子供になっていた。

「おいロク狭い暴れんな。」

「うっせ。お前何達観してんだ?いやつかなんでクマ公はでかくなってんだ…。」

ロクの言うように、メグの方は普段よりも大きく、25歳ほどまでになっている。
ルジェントは一部始終を見て一通り笑い終わるとメグを手招きした。
今まで一言も話していなかったメグはメグなりに混乱していたらしく、ルジェントに手招きされオロオロと、しかしどこか安心したように歩き出す。

「いや、見事にいい子になったな…っく、ふは。」

「まだ笑ってんのかよ!」

「悪い悪い。けどなぁ…?」

メグを撫でながら、ルジェントはロクとしずくをジロジロと見た。

「っかわいいじゃねーか!」

また大きく笑い出したルジェントに、ロクもしずくもイライラとした表情を隠しもせずに睨む。

「…ボスぅ。」

「「ぐえっ!?」」

泣きそうな声でメグはルジェントを呼び、不安からか腕の中の二人をぎゅうと抱き締めた。
外見が変わろうと中身はそのままらしい。
ルジェントはいつもより背の高くなったメグの頬をむにむにと撫でる。

「ちょっとしたお遊びだ。」

「お遊びぃ?」

「そうだ。もうすぐ節分にバレンタインだろ?なんか面白い事をしようかと思ってな。」

メグにぎゅうぎゅうと抱き締められているままのロクとしずくは、ふざけんな!と内心で叫ぶ。
傍に控えていたラオジュがそれに気付きそんな二人を撫でた。しかしそんな扱いをされても二人は不機嫌になるだけである。

「愛、ちゃんと解毒薬はあるから安心しろ?」

「どうしたら解毒薬くれるの?」

「物分かりのいい子だ。」

「へへ。」

漸くメグの肩から力が抜けたのか、メグの腕にぎゅうぎゅうと抱え込まれた二人も漸く息をついた。

「さっさと解毒薬よこせ!」

「つかいつの間に盛ったんだよ!」

「うちの優秀なスパイに。」

さらりと吐いたルジェントにロクとしずくはもう怒りを通り越して呆れたらしく、ぐたりとメグの腕に体を預ける。

「節分はリアル鬼ごっこで、バレンタインは上司もしくは俺にチョコを寄越せ。勿論好きな奴にチョコ渡してもいいけどな。」

「おい待てボス。」

「しずくに同じく待てボス。」

「「リアル鬼ごっこってなんだ。」」

声を揃えて言った幼い体の二人にルジェントはにっこりと笑った。

「制限時間を設けて子供が追い掛けられて、大人が鬼。鬼に捕まったらアウト。捕まらなかったら解毒薬をやる。」

「捕まったら二度と戻んない?」

「バレンタインに誰かにチョコをやった奴には俺からプレゼントで解毒薬入りチョコをやるよ。」

「なるほど!」

なるほどじゃねーよ強制イベントに疑問を持てよ。
と、ロクとしずくは思ってもあえて口に出さなかった。外見が成長しても中身が子供なメグに毒気を抜かれたらしい。

「因みに、19歳以下が多分25歳位の大人年齢なって、20歳以上の奴らが5歳位の子供年齢になってるからな。」

「すげーどうでもいい…。」

ロクやしずくからは疲れたような溜め息が零れ落ちた中、メグはボスに撫でられて最初の戸惑いはどこへやら、嬉しそうに笑っていたと、ラオジュは後にしみじみと語る。
部屋の隅でラオジュは、ルジェントやメグたちにと紅茶を用意しながら、そろそろ語り役にもなれたなぁとぼんやりと思った。




年齢逆転!




いっそ開き直ろう。






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