ゴンが風邪をひいた。

珍しい、本当に珍しい。今まで病気は愚か、クシャミの一つもしてなかったやつが、今朝、熱を出して寝込んでいる。

本人曰く、普段はあまり風邪をひかないけど、極たまに、4年に一度くらいに、こうして熱が出ることがあるらしい。お前の風邪はオリンピック並か。全くゴンは、風邪をひいてる時でも、面白いやつだ。


なんて思いながら、俺はベッドで横になっているゴンに話し掛ける。



「気分はどうだ?」
「うーん……すごい、身体が熱いよ」
「熱があるからな。ほれ、薬」
「ええっ、薬ー?」
「なに嫌な顔してんだよ。早く風邪、治したいだろ?」
「……苦くない?」
「大丈夫だよ。そんなに嫌なら、俺が飲ませてやろうか?」
「子供じゃないから、一人で飲めるよっ」



ゴンはムキになってそう言うと、薬と水を受け取り、グイッと一気に飲む。ほんと、ゴンったら頑固な性格なのな。


別に、子供扱いした訳じゃないのに。

そんなに飲むのが嫌だったら、口移しで飲ませてやろうか?って言おうと思ってたのに。いや、その方が駄目か。いろいろ。



「うぐ、にがぁ〜」
「良薬口に苦しって言うだろ?薬飲んだら、大人しく寝てな」
「うん。……ごめんね」
「ん?何が?」
「今日、デートする予定だったのに、オレが熱出したから、ダメになっちゃった」
「体調だもん、しゃーねぇよ。それに、デートならいつでも出来るし」
「……ありがとう」



そう、礼を言いながら微笑むゴン。

に、キュンとする俺。


なんだ!?このしおらしさっ!なんか、いつもより笑顔がふにゃふにゃしてて、可愛い。熱のせいか、瞳も潤んでるし。いや、ゴンはいつだって可愛いけど……けどっ!なんだこの胸が締め付けられる感じっ!


スゲー、守ってやりたい。

めちゃくちゃに抱き締めたい。


でも、ここは我慢だ。思いっきりギューッて抱き締めて、そのせいで、余計にゴンの具合が悪くなったら困るしな。


だから、



「わ、わっ、キルア……?」



ゴンの頭を撫でた。

それで、何とか気持ちを治めた。


最初、ゴンはビックリしたのか目を丸くしてたけど、“おまじない”なんてカッコつけて言ってみたら、安心したのか、ほう、と深く息を吐いて目を閉じる。



「キルアの手、冷たい」
「あ、わりっ」
「ううんっ、……気持ちいい」



その言葉を聞いて、俺はゴンのおでこや首に手で触れる。ゴンの身体は、どこもかしこも熱くなっていた。俺の冷たい手が、少しでもゴンの熱を下げれば良いのに。


こんな手でも、ゴンの役に立てるなら。

いくらでも、頭を撫でるから。



「……今、ね」
「ん?」
「昔のこと、思い出してた」
「何を、思い出してたんだ?」
「オレ、小さい頃、今日みたいに、すごい高い熱出しちゃってさ」
「うん」
「その時ミトさんが、キルアみたいに、オレの頭、撫でてくれたんだ」
「こうやって?」



そう聞くと、ゴンはコクリと頷きながら、懐かしそうな笑顔を浮かべた。


そんなゴンの顔を見て、ふと考える。

ゴンは、ミトさんに会いたくなったりするんだろうか。ミトさんに会えなくて、寂しくなったりするんだろうか。

ホームシック……なんて、家を出た俺にはどう頑張っても理解できないけど。


俺は、思っていることをそのまま、ゴンに質問してみた。



「ゴンは、寂しくなったりする?」
「へ?寂しく?」
「だって、ずっと一緒だったろ。ミトさんや、みんなと」



俺の問いに、ゴンは一瞬考える。


だけど、すぐにこう答えた。



「たまに、ミトさんに会いたいなって思う時はあるよ」
「そか……」
「だけど、寂しくはない」
「え?」
「キルアが隣に居てくれるから!」



う、わ、マジかよ。


ゴンの答えに、俺は目頭がジワッと熱くなるのを感じて、慌てて下を向いた。

“どうしたの?”とゴンは聞いてくるけど、それに答える余裕は無い。この熱が治まるまで、もう少し時間がかかりそうだ。


……俺なんかじゃ、

ミトさんの代わりになるなんて、絶対に無理だろうなって思ってたのに、ミトさんには敵わないなって思ってたのに。


なんでこう、嬉しいこと言っちゃうかな。

なんの躊躇いも無く。



「キルア?」
「……あんまり、嬉しいこと言うなよ」
「へ?」
「いろいろ、我慢できなくなるだろ」
「我慢なんか、しなくて良いのに」



だから、そうやって何も考えず、無邪気に発言すんなよ。

俺が考えてる我慢と、お前が考えてる我慢は、絶対に別物なんだから。


なんて思いながらも、少し、熱が治まってきたから、俺はゆっくり顔をあげて、ゴンのの顔をまじまじと見つめる。


そして、



「あっ、キスはダメだよ!」



キスをしよう、と顔を近付けた瞬間、ゴンが“ダメ!”と言って、両方の手の平でサッと唇を隠した。


むむ、と唇を尖らせる俺。

ゴンは恥ずかしそうに、口をモゴモゴさせながら、こう言う。



「キスなんかしたら、オレの風邪、キルアにうつっちゃうもん」



そんなこと、気にしてたのか。

気にしなくたって良いのに。ゴンの風邪だったら、いくらうつっても構わないし、それで、ゴンの熱が下がったら嬉しいし。


だけどゴンは、一度こうだと決めたら、意地でもその考えを変えない質だからな。


……仕方ない。


俺は再び、ゴンに顔を近付ける。



「ダ、ダメだってば!」
「大丈夫。口にはしないから」
「何を、――っ!」



チュッ、と。

小さく鳴らしたリップ音。


一瞬だけ唇を付けて、すぐにパッと離れれば、目が丸くなっているゴンの顔が目に入って、思わず吹き出してしまった。

ゴンは唇を覆い隠すのも忘れて、俺がキスした箇所を、手の平で押さえている。


さっきまで、俺が触ってたとこ。


おでこに、キスをした。

早く熱が下がるよう、想いを込めて。



「風邪、早く治せよ」
「……っ」





熱、急上昇


(キルアのバカ……これじゃあ、余計に熱上がっちゃうよ)
(ん?)
(なっ、何でもないっ!)





―END―



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君という光のヨシオさまから頂きました!!
ウッウウオオオ。゚(゚^////^゚)゚。何度も読んでは奇声を上げて身悶えました
風邪ネタを〜というお願いでまさか2パターン書いていただけるとは思ってなくてどちらも萌えすぎてたまらないです!!風邪っぴきのおいしさとゴンとキルアの可愛さを再確認しました…わたしの熱も急上昇で息が荒いですフヒーッ!!!!

素敵なおはなしと萌えと癒しをありがとうございました!
これからもよろしくお願いします…!!!


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