「うー、だりぃ」
「遅くまで外に居るから風邪ひくんだよ」
「仕方ねぇだろ?昨日はゲームの発売日だったんだから」



うーん、と苦しそうに唸りながら、布団の中で丸まっているキルアのおでこに、オレは氷水で冷やしたタオルを乗せる。

今朝、キルアがなかなか布団から出てこないから、心配になって様子を見に行ってみたら、すごい具合悪そうにしてて。

昨日の夜中、ゲームの発売日だからって、寒空の下、ずーっとお店の前で並んでたら、風邪をひくのも当たり前だよね。寒がりなくせに、薄着で外に出ていくし。



「今日は暖かくして寝ててね」
「ん……」
「ちゃんと熱が下がるまで、ゲームしちゃダメだよ」
「分かってるって」
「何か欲しい物、ある?」
「んーん」
「そっか……」
「何も要らないから、ここに居て」
「う、うん」



キルアに言われた通り、ベッドの脇に、ちょこんと正座して座る。

“ここに居て”って、こういう意味で良いよね。キルアの傍に居るって意味だよね。


でも、ちょっとビックリしちゃった。

キルアのことだから、一人でゆっくり寝かせてくれとか言うんじゃないかって思ってたから。こんな風に甘えてくるなんて。

風邪ひいてて弱ってるからかな?



「うーん……」
「大丈夫?」
「おう……けど、汗が鬱陶しい」
「汗?……あ、そうだっ」
「ん?」
「ちょっとだけ待ってて!」



そう言うと、オレは一旦台所へ向かう。

そこで、洗面器にぬるま湯を汲み、少し大きめのタオルを用意してから、またキルアが寝ている部屋に戻った。

キルアは、不思議そうな表情をしている。



「なに?」
「汗でベタベタだろうから、身体拭いてあげようと思って!」
「はあ!?良いよそんなっ」
「でも、着替えた方が良いよ」
「自分でやるから……って、ちょっ、勝手にパジャマ脱がすなーっ!」



真っ赤な顔してギャーギャー騒いでるキルアを無視して、オレは、キルアの着ているパジャマのボタンを外していく。

キルアのパジャマ、汗でびっしょり。


“自分でやる”なんて言って、一人で起き上がるのも辛いくせに。

もっと、甘えてくれて良いのになぁ。


そんなことを思いながらも、ちょっぴり強引に、ぬるま湯に浸けて絞ったタオルで、キルアの身体を拭いていく。



「気持ち良い?」
「ん……うん」
「いつも思ってたけど、キルアの肌って、やっぱり白いんだね」
「改めて言うなよ、恥ずかしい」



はあ、と漏れた吐息が熱くて、また熱が上がってきたんじゃないか心配になって、オレはキルアの顔を覗き込む。


その時、目に映ったキルアの表情が、いつもと何だか違った気がした。

いつもより赤く火照っている頬が、頬から顎、首から滴り落ちている汗が、妙に色っぽいというか……わあ、なんだこれ。

半裸なんて、普段なら見たって何も感じないのに、今は、すごいドキドキしてる。



「……ゴン?」
「っ、へ?」
「今、何考えてた?」
「べ、別に、何も」
「やらしいこと考えてただろ」
「かっ、考えてないよっ!」
「ふーん?」



うわ、このキルアのニヤニヤした表情、絶対に信じてないな。やらしいことなんて、本当に考えてなかったのにっ!

ただ、ドキドキしてただけだもん。


オレは恥ずかしい気持ちを掻き消すように、ちゃちゃっとキルアの身体を拭き、新しく持ってきたパジャマを着せた。

これ以上、直視できなかったし……。


するとキルアは、さっきよりは楽になったのか、穏やかな表情で再び寝転ぶ。



「はー、さっぱりした。ありがとな」
「ううんっ、良かった」
「……へっくしっ!」
「キルア、寒い?」
「ん゙、ちょっとな」



そっか、熱があったら寒気するもんね。

キルアは少し震えながら布団にくるまり、猫みたいに身体を丸める。


オレが、キルアに出来ること。


……よしっ!



「キルア、ちょっとごめんね」
「え?な、なに……どわっ!」



こんなことしていいのかなって迷ったけど、オレがキルアに出来ることっていったら、これくらいしか無かったから。


キルアの身体を暖める。

オレの身体を使って。


キルアと一緒にベッドの中に潜り込み、キルアの身体を、痛くならないように、優しく、包み込むように抱き締める。

キルアはまた、ギャーギャー騒いだ。



「ちょ、おまっ、何して……っ!」
「さっき、キルアが言ったんだよ。オレに、ここに居てって」
「それは、そうだけど」
「オレさ、レオリオみたいに薬持ってないし、クラピカみたいに頭良くないけど、キルアの身体あっためるのは、出来るよ」
「ゴン……」
「だから、もっと甘えてよ」



そう言って小さく笑ったら、キルアは顔を真っ赤にしたまま黙り込み、困ったような表情で、オレを見つめる。

そして、観念したように、オレの肩に腕を回し、キュッと弱々しい力で抱き着いてきた。鼻先をオレの鎖骨に擦り付けてきて、まるで、仔猫が甘えてるみたい。


なんか、可愛い。

オレは頬を緩ませながら、キルアの背中を一定のリズムでポンポン撫でる。


そしたらキルアは、こう呟いた。



「薬なんか、いらねぇ」
「え?」
「頭も良くなくていい」
「キルア……?」
「俺は、ゴンが居てくれれば、それだけで、元気になれるから」



そう呟きながら、微笑むキルア。


耳元で囁かれた言葉は、自分にとってあまりにも嬉しい言葉で、胸が熱くなる。

一番大好きな人にそんなことを言われたら、もう、どうしようもないくらい、嬉しくて、胸の中で何かが溢れそうになるよ。


キルアの唇が、一瞬だけ、オレの耳たぶに触れて離れる。それはいつもより熱を帯びていて、ほんの少し乾いていた。

そんな感触にドギマギしていると、キルアが息を詰まらせながら、こう言う。



「はぁー……ダメだ」
「ダメ、って?」
「ヤベェ今、キスしそうになった」
「っ!」
「キスなんかしたら、風邪うつるよなぁ」



そう言って、オレの胸に項垂れるキルアは、何だか残念そうで。その様子に、オレはクスクスと笑ってしまう。


キス……か。

そう言われると、さっき耳たぶに感じた唇の感触を思い出して、耳に熱が集まる。


オレは、どうにかこうにか熱くなる気持ちを抑えて、さっきのお返しと言わんばかりに、キルアの耳元でこう囁いた。



「治ったら、いっぱいしようね」
「っ!?」





熱、急上昇


(あれ?キルア、また熱上がった?)
(お前のせいだ、お前のっ!)





―END―




ゴンちゃんが風邪をひいてるバージョンのお話です!



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