ホストクラブ短編 | ナノ



碧羽


――彬光へ

この手紙が届いてる頃には、もしかしたらオレはいないかもしれない。
なーんて書いてみる。でも本当、届いたらそうかも。
もし俺が生きてたらこの手紙が彬光に届かないようにオレが裏で回してるからな。格好良いだろう?

手紙を見ちゃった以上、本当の事を書いておく。

あの日、彬光とあの林で会った日、初めて病気の事を知ったんだ。
自分の寿命が短いなんて思いもしないだろう?実際、あの時はへこんだしすげぇ辛かったけど元気だった。
そんで、気付いたんだよ…オレには心底オレを大事にしてくれる人が親以外いないんじゃないかって。

学校の連中やいつもツルんでる涼なんかも、みんな優しいし大事に思ってくれてる。
でもオレが欲しかったのは、今のところで言う彬光のような存在だった。

しかしさ、あの時は目が覚めたら隣で彬光が寝ててビックリした。
一瞬、本気で死んでるのかと思ったんだ。
もしかしたら、いつかオレが連れていっちゃうんじゃないかって…凄く怖くなって、寝てるだけって分かってるのに無理矢理、彬光を起こしてさ…。

あの日から彬光はオレを気に掛けてくれたよな。

何を心配してるんだか、オレがいないと不安そうで。そのくせ姿を見せるとホッとしたように表情が柔らかくなるんだ。
もしかしたらオレの病気の事知ってるのかと思ったけど、そうじゃなかった。
感じてくれてたのかなって、ちょっとテレパシーだったらいいなって思う。

まあ、そんな彬光を放っておけないと思ってオレが仲良くしてあげたんだ。

嘘。ごめん…本当は、ずっと謝りたかった。
あの日、林でオレが「寂しい!オレの事心底大事にしてくれる人現れろー!」って願っちゃったから、彬光と親しくなれたんだと思う。
以前までの関係だったら、こんなに悲しませずに済んだのに…今は少し後悔してるんだ。

本当は告白だって、即オッケーだったんだ。
でも、傍で弱ってくのを見せるのが怖かった…。

ま、最終的には夫婦だけどな。

残りの人生…付き合わせて本当にごめん。
彬光は優しいから、きっとオレが居なくなったら凄く泣いちゃうと思うんだ。本当はそんな思いさせたくなかったのに、どうしても彬光の傍にいたかった。

お蔭で最高に幸せだったよ。

だからオレの旦那サン、どうか幸せに。
もし、この手紙を読んだなら自分の幸せを考えてほしい。
家庭を持って、子供作って、サラリーマンでもやってなよ。

彬光はオレにぞっこんだから、きっと泣いて泣いて大変だと思うけど…絶対幸せになってほしいから。

最後に…過ごした日々を忘れてと言えないオレを許して。

アイシテル、なんて。いや、本当だよ。

ありがとう――











碧羽のお母さんと別れて駐車場に向かうと、聞き覚えのあるバイクのエンジン音に一気に眉間が寄った。

「よお、元気だったか?」

「峰岸…相変わらず何てもんに乗ってるんだ」

「夏はバイクでしょ」

「相変わらずうるさい奴だ…碧羽に会うなら行って来い」

「じゃ、お前もついてきて」

「俺はもう行ってきた」

「いいから、いいから」

「あっ、やめろ峰岸!」

峰岸とは何だかんだで腐れ縁になってしまった。
こいつは十年経った今も何も変わってない。それどころか年を重ねるごとにズル賢さも身についてただ厄介でしかない存在だ。

しかし、俺は峰岸に感謝しなければいけない。

――特別な感情を碧羽に持つのは駄目だ

あの時言った言葉は俺を思っての事だったと分かり、今は少し罪悪感がある…。
碧羽の事を知っていた峰岸は、アイツなりに俺を見守ってくれていたのだろう。
何ともお節介な奴だ。

しかし碧羽の事を知っているのに、何故言わなかったのかと責めずにはいられなかった。
その時、初めて峰岸は俺に怒鳴り声を上げたんだ。

『オレだって言えるならそうしてたんだよ!でも、碧羽が知られたくないって言うんだから仕方ねぇだろ!!』

後にも先にも峰岸が俺に向けて怒鳴ったのはその時だけだ。
峰岸だって碧羽を失って辛かったのに…。

そして俺と同じく毎年この時期に碧羽に会いに来る峰岸は、今でもアイツの良い友人だと言えるだろう。


『峰岸…もし、碧羽がいたら何の仕事してたと思う?』

『んー…アイツ、馬鹿だけど口だけは上手いからな。ホストでもしてんじゃねぇ?』

『そうか…じゃあ、ホストになろうかな。どうせ大学行かないし』

『はぁ?マジかよ…でも、面白そうだからオレもホストになろうかな』

『真似するな』

『いいじゃん、仲良くしようぜ〜』

今、こうしているのは碧羽と、少しだけ峰岸のお蔭でもあるのは認めよう。

「おーい、若菜!」

「峰岸、何度言ったら分かるんだ。その名前で呼ぶな」

「はいはい、”神田さん”」


――碧羽、俺は今Queenというホストクラブのオーナーをしてるよ。
一度はお前の願い通りサラリーマンをやってたけど、どうやら俺にはこっちの世界の方が向いてるみたいだ。

神田の名前は俺がこの業界でやっていくためにつけた。
前向きにやっていこうという、俺なりの“変化”をつけるために。

でも、お前が呼び続けてくれた名前は変える事ができなかったよ…。

神田 彬光

今はそれが俺の名前。


――彬光、お前が幸せになる為にオレが必要なら、ずっと傍にいるから…


すまない、もう少しだけ…お前を想う事を笑って許してくれ。




END


あとがき→




prev / next


全10ページ


Back







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -