ホストクラブ短編 | ナノ



碧羽


放課後、ボクと碧羽は一緒にあの林の奥にある広場へ向かった。
少しだけ日が落ちてきたが、十分日差しのさすこの場所はとても心地が良い。

碧羽は、あの日と同じ場所にゴロンと寝そべりチラリとボクを見た。

「ほらほら、こっち来て」

碧羽が隣に寝ろと手招きをする。
ボクは少し困って碧羽の傍に寄ると、迷った結果その場で胡坐をかいた。

「何だよ、横になったら気持ち良いのに」

「できないよ…」

「ふぅん…じゃ、いいよ」

わざと拗ねたように背中を向ける碧羽はまるで子供のようだ。
それでも、本気でやっていないと分かるからこそ可愛げがある。

「碧羽、怒った?」

「怒った」

「へー、じゃあボクも碧羽の真似して怒ろうかな」

「それはダメ、そんなの変じゃん!」

がばっと起き上がりムキになる碧羽に笑いが込み上げる。
峰岸じゃないが、何が可笑しいのか腹を抱えながら笑っていると、むぅっと唇を尖らせた碧羽が再び拗ねて背中を向けた。

「ごめんって、なぁ碧羽」

もういいよ、と今回は本当に拗ねているらしい碧羽にボクは困ってしまう。

「碧羽…」

「なあ、彬光の夢って何?」

それは唐突な質問だった。
碧羽は今までの流れからどうしてこういう話になった?と思うような事を時々する。それが碧羽らしい所だが、まだ慣れな面でもある。
けど、無視をする気もないから「そうだな」と自分なりに考えてみた。

「昔は沢山やりたい事あったんだけど、今は目先の事も分からないよ」

「目先の事…卒業後の事とか?」

「主にそれだね。何でそんな事聞くの?」

「何となく自分が何をやりたいのか考えてみたら、意外と浮かばなくて…それで彬光はどうなのかなって…」

「じゃあ、碧羽の夢は?」

先ほどの質問を返してみると、碧羽は少し悩んだ後クスクスと思い出したように一人で笑う。
その様子にボクまで何故か笑顔になっていて、やっぱり碧羽と過ごす時間が幸せだと感じていた。

「何一人で笑ってんの?教えろよ」

「えー、絶対笑うもん」

「笑わない!うん、笑わない…努力をしてみる」

「努力かぁ…じゃあ言うけど」

耳を貸せと手招きをする碧羽に、ボクはドキドキしながら顔を近付ける。
碧羽の息が掛かりそうで益々心臓が早鐘を打つ中、耳元で囁かれた「結婚」の言葉に思わず噴き出した。

「ぶはっ!ええ?ふざけてるだろ、それ」

「マジだよ、マジ」

「“結婚”って、女の子じゃないんだから――」

自分の言葉にハッとする。

そうか…碧羽の夢は、いつかは女の子と結婚して家庭を持つことなんだ。
ボクだって願った事はないけど、将来叶えたい夢の一つだった…。

思わず無言になるボクに、碧羽は不安そうな表情を向けてるのが分かった。
それでも顔を合わせる事ができなくて、やっとの思いで口を開いた時…碧羽が言った。

「あ…今日…話しあるって言ってたよな」

「うん…あのさ、碧羽――」

「ああ、やっぱちょっと待って!心の準備するから!」

心の準備?
碧羽はボクが言おうとしてる事を知ってるという事だろうか。

(もしかして、峰岸が言ったのか?)

アイツの事は信用してないのもあって、ボクの中で勝手な怒りがふつふつと込み上げてくる。
そんな事を知らない碧羽は何故か今にも泣きだしそうな顔でボクに言った。

「オレ…彬光に何か悪い事したかな…」

「え?」

「本当は、気付いてたんだ…お前がオレを避けてる事…その事、言おうとしてるんだろ?」

「それは――」

「彬光がオレの事嫌いだったら仕方ないと思ったけど、やっぱり嫌だ!オレ、お前がいないと嫌だよ…っ」

「碧羽…!」

碧羽の目にたまった涙がぽろりと零れるのを見て、我慢できずにきつく抱き締めた。

「ごめん、不安にさせてごめん、違うんだよ碧羽…!」

いつも元気で周りには沢山友達がいて笑顔が絶えなかったから…こんな風に思ってたなんて知らなかった。
どれだけ碧羽を傷付けたか…今になって気付くなんて、本当にボクは自分勝手な奴だ。

「好きなんだ…」

「え…?」

「碧羽、キミが好きだ。その事を…言おうと思ってた」

本当は一生隠していこうと思った。碧羽の良い友人として、コイツに家庭ができてもずっと傍で仲良くやっていけたらと…。

「だから…もう、友達じゃいられない」

「――っ…うっ」

碧羽は弱々しくボクの胸元を数回叩きながら「何で」と何度も口にした。
その姿に碧羽の気持ちはボクを友人以上に思う事はないのだと気付くのと同時に、ボクの頬に一筋の涙が静かに零れた。

「…馬鹿…馬鹿野郎ぉ…」

「ごめん…」

見上げた空は気付けばオレンジ色で…その夕日があまりにも綺麗で益々泣けた…。





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