「んーっ」 待ってたぜ、春。 暑くもなく寒くもない丁度いい季節。特に今日はいい感じにあったかい。風は緩く吹いてるから花粉は飛んでこないし、太陽さんだってそこまでギラギラしてない。 こんな日に授業でるなんて、なんかすげーもったいないことしてるような気がして、俺は授業をサボり屋上にきた。 すると、予想通りあいつもいた。 教室で見なかったからここにいるんだろうなあって、ちょっとだけ期待してきたんだぜ? こんな天気の日は、1番落ち着くお前の隣でゆっくり寝たいなって思ったから。 「にーおう」 「お、なんじゃブン太」 「隣座っていい?」 しおらしく今更なことを聞いてみれば、当然のように返ってきた許可と、柔らかい笑顔。 なんだか少し、くすぐったくなる。 「俺の隣は常にブン太の席やからね」 「うわ、クサっ」 「嬉しいくせに」 「まあ、嬉しくないこともないこともない」 「…結局どっち?」 「わかんね」 「自分で言ったくせにわからんて」 「笑うな」 二人してケラケラ笑いながら仁王の隣に座ってよりかかった、ら、こっちおいでって、足の間に座らされた。背中があったかい。 こいつの体温は今日みたいな日のあったかさと同じくらいだな。俺的1番心地いい温度。 「…におー」 「なん」 「授業さぼりすぎ」 「人のこと言えんじゃろ?」 「せんせーからの伝言」 「ほうけ」 「さっき探してくるっつって教室出ようとしたら尋問してこいって言われた」 「なんやそれ。まあ、授業さぼってここに居ったらブン太が会いに来てくれるじゃろ?それが理由ってことにしとくかの。てかあいつらブン太に甘い」 「まー俺可愛いからね、甘やかしたくなっちゃうんじゃね。てか教室でも会うじゃん、しかも隣の席だし」 「どーせなら2人きりがええき」 「……」 「ブン太は俺と話す時ころころ表情変わるけの、そんなん誰にも見せたくないんじゃ。ただでさえ可愛いのに惚れさせてまう」 「意味わかんねー」 ほんとによくわからなくて、少し考えてみた けどやっぱりわからない。表情がよく変わるってのは仲良いやつにならけっこう言われるし、それを今更見せたくないとか言ってもなあ…。 「よくわからんって顔じゃね。そうやって考えとるんも俺くらいしか見れとらんことになんで気付かんかの」 「え?」 「かーわい」 「…」 むかつく。むかつくむかつく!なんだそのかっこいい顔!大人びた顔!かっこいいとか思ってないけどな!! うっかり照れた自分とたぶん赤くなってしまってる顔を紛らわすために、すぐ隣にある仁王の二の腕を殴ってみた。所謂、照れ隠しってやつ。 「ちょ、ブン太痛い、シャレにならんて」 「うるさいっ、し!」 「ちょ、ストップ!」 1回じゃ気が済まなくて何回も殴る。ここだけ読んだらただの暴力シーンだけど違うから。 「ストップ!!」 「………」 もう二の腕だけじゃ収まらなくなって、腹とか肩とかを叩いてたら頭に仁王の手が置かれた。 これは反則だ、いやでも叩く手を止めてしまう。 「おん、いい子」 「、撫でんな!」 「髪ふわふわー」 「なに、そんな殴られてえのかよ」 「もー、すぐ手がでるのはブン太の悪いとこじゃよ?少しは我慢しんしゃい」 「んじゃあ仁王も俺の服んなかに手いれんな」 小さい子をあやすみたいな口調とは真逆の動きをする左手。こいつはいつだって最後でかっこ悪いから大好きだわ。 「何も言わんと足の間に座った時点でそんくらいの覚悟はしといてくんないと」 「えー、だってこの場所は俺の特等席だからほら」 「愛されとるのう…」 「お菓子には負けるけどな」 「まじでか。それ結構キツイんじゃけどまじでか」 「嘘の反対の反対の反対の反対の反対」 「だからどっちやって」 「知らね」 そんなこと言いながらも服の中の手は居心地のいいとこを探してうろうろしている。 春の陽気さん、こんなやつの体温と一緒にしてごめんね。 「あったかい」 落ち着く場所を見つけたのか、動かしてた手を止めて、俺の肩に顔を埋める仁王。 振りほどかない俺も俺だわ。 「なあー、シャツから手だしてー。仁王くんの大好きなブン太様が言ってんだよー」 「ふふ、大好きやけ手も突っ込みたくなるんじゃ。あったかしい」 「そんな不純な愛いらない」 「服んなかに突っ込むだけじゃ満足せんの?もうブン太ったら「黙れ変態」 「愛のパワーってすごいんじゃよ?なんでもできる気がする」 「じゃあ俺が仁王をしばくのも愛のパワーだと思ってよ」 「やけ、毎回殴られても拒否しながら笑うとるじゃろ」 「あれは流石にちょっとひくよな。M?とか思うもん。あ、雅治のMとマゾのMがかかってんだ!」 「Mではない、決してMではない」 「あはっ、なんかもーどーでもいー!俺寝る!」 「早っ!切替早っ!」 「うるさい」 アホみたいないつも通りの会話がなんだか心地いい。春の陽気も合間って、知らず知らずのうちにだいぶリラックスしていたのか急に眠気が襲ってきた。そのまま仁王に身体を預けて、本格的に眠りに入る。少し上から、柔らかい柔らかい仁王の声が降ってきた。 「好いとうよ、ブン太」 「…うるさい」 いい声だすんじゃねーよ、寝らんねーだろい。 「愛しとうよ」 「……うるさい」 吐息を漏らすなエロい、どこの忍足だよ。 「好きすぎて狂いそう」 「そのまま死ね」 俺のこと好きすぎて狂うなんて嬉しすぎ。もういっそのこと死んじゃえ。 春の陽気と、クサい台詞と体温と、俺を撫でる手と甘い言葉たち。 そんなんが全部揃ってる今、俺はきっと世界で1番幸せ者だと思うっちゃってるくらいには、世の中の頭沸いたカップルと大した変わらない恋をしてるんだと思う。 だから俺からも、仁王が幸せだって飛び回れるような言葉、贈ってやるよ。 「俺も愛してるよ、雅治」 ... 甘いの苦手、果たして甘くなっているのかも謎。 |