どうも、切原赤也っす。強豪・立海大付属男子テニス部でエース様やらせてもらってる切原っす。実際にはエース()って扱いだけどめげねーっす。早く先輩共倒すんす。とまあ俺がどれだけエースとしてのプライドを持っているかがわかったところで、今の状況を一言で説明しようと思う。

部 室 崩 壊 の 危 機 。

わかる?わかるこの危機感?まさに崖っぷちギリギリ。今まで他校の連中を崖っぷちギリギリに追い込んであまつさえ崖下に突き落としてきたような俺が、俺らが、崖っぷちに立たされている。話は変わるようで変わらないんだけど、俺はあまり緊張したりしない。冷や汗はいっつもかいてるけど。冷や汗をかく割合としては、部長関係が5割、柳さんと副部長が2割ずつ、残りの1割は有名人だらけのレギュラーの中でも郡を抜いて有名な我らが紅白バカップルだ。つまり俺の冷や汗の原因は常にレギュラーの先輩なわけ。でも部長も副部長も柳さんも、基本的に俺が100%悪い時かもしくはあのクソカップルにまんまと嵌められた時しか怒らないからまだいい。問題はおめでたい見た目通り頭ん中まで年中おめでたいクソカップルっすよ。今まさにこの部室崩壊の危機を招きそうな雰囲気垂れ流しにしてるクソカップルっすよ。
この人らの何が嫌かって、必ず人を巻き込むとこ。もう関係のない人間巻き込まないと死んじゃう病にでもかかってるんじゃないかってくらい誰彼構わず巻き込む。二次も三次も次々に災害が起こる。そして超絶不本意ながら俺はだいたい巻き込まれてる。きっとこれからもそう。大丈夫、平和で平凡な日常はテニス部に入るときに捨てた。若干話が反れたけどとにかくそんな感じで紅白バカップルに巻き込まれたが最後、めんどくさくてめんどくさくてそれでもどうにか頑張っても結末はだいたい理不尽な説教だってことは入部して3ヶ月後に身を持って知った。さらに今回はどうやらふたりの話題の中心に俺がいるらしい。神様はそんなにも俺が嫌いっすか?例えば今だって



「赤也かわいー」

ヤメロ、

「はあ?なに浮気?つーか赤也はかっこいいんだぜ」

ヤメロ…!!

「その発言は浮気ととってええんか?おん?かわいいじゃろうが」

「浮気発言はどっちだばか。赤也かっこいいもん、俺抱かれてもいい」

あああああああやめろください本当にぃいぃいいぃいいいい!!!!
話題の中心どころか俺のせいで喧嘩してるみたいになってんじゃん!!どんだけ神様は俺のこと嫌いなの!?大っ嫌いなの!?なんで!?俺なんもしてねー!いつも通りの淡々とした会話と見せかけて、丸井先輩は眉間に皺寄せながら頬杖ついてるし、仁王先輩はありえないくらい冷めた表情のせいで普段から悪い目つきが4,5人殺せそうなくらい悪いすぎて怖い。しかも貧乏揺すりやべえ。これの何が怖いかってそりゃあ丸井先輩がいつキレるかわかんないとこっすよ。この人キレたら手付けらんないし文字通り部室が崩壊する。うちの喧嘩番長マジ喧嘩番長。一発が重い、前に俺のロッカーのドアがべっこり凹みすぎてが開かなくなって泣いた。あの時はいつもなら止めに入る仁王先輩も物凄く機嫌悪くてむしろ参戦しそうな勢いだったから事態の収拾がすっげー遅くなって部室と副部長の機嫌も急下落して俺一瞬本気で自殺しようと思ったんすよ。まあジャッカル先輩と柳生先輩が止めに入って説教して収まったんだけど。
そんなわけで、今回は流石の幸村部長ですら口を挟めなくて副部長も空気読んでコートに逃亡。ジャッカル先輩と柳生先輩も以下同文。俺?俺だって逃げてーよ!なんか話のネタにされてるし!でもここで逃げたらきっとメンタルフルボッコの道しか残されてない。俺のライフカードはいつだってメンタルフルボッコと物理的フルボッコの二枚しかないんだ。なにそれ不憫。
そうこう考えてるうちにもバカップル先輩らの言い合いは続く。


「抱かれる?本格的な浮気発言じゃなあそれ許さんよ。まあ俺は赤也ならいつでも抱いちゃるがな」

「いつでも抱いちゃるってお前それこの前俺にも言ってただろこのヤリチン死ね。もういい俺次赤也ん家泊まったら抱かれてくるからな」

「次泊まったらってサラっと前にも泊まったことカミングアウトけ、俺に一言言うてくれてもよかったんちゃうん。部活終わったら赤也抱いちゃるよもう」

どんどんヒートアップする口論。お願いだから俺を抱くとか抱かれるとかの話はやめてくださいまじで。仁王先輩のイタズラを俺の仕業にされた時よりも、丸井先輩のドジを俺のせいにされた時よりも、喧嘩で不機嫌な時に丸井先輩は無駄に叩く蹴るして鬱憤晴らして仁王先輩にはイリュージョンフルコースのテニスで手も足も出させてもらえないうちにボッコボコにされた時よりも嫌だ。つらい。トゥライ。おっと、つい現実逃避するとこだったわ。
チラッと丸井先輩を盗み見たら、なんだか目にうっすらと膜が張ってある。俺知ってんぞ、その膜。水のな、泣く前のな。

ん!!? 泣 く 前 の ! ?


「……………なんなんだよバカ!!!仁王なんか嫌い!!!」


!!!!やべえやべえやべえもうやべえしか思えねーやべえ!!丸井先輩泣く!?すげー涙目だけど!?つーか叫ぶなうるせえ!!心臓止まるわ!

「そーかそーか俺かてブン太なんか嫌いじゃあほ」

あほはアンタだよこのチョロ毛がッ!!嫌いとか言ったら、

「ぅーっ…お前なんかもう見たくない!どっかいけもやし!!」

ほら!丸井先輩が!まじで泣いちゃうから!やめて!先輩が痴話喧嘩で泣くとこなんて見たくない!絶対に見たくない!しかも部室で!最悪!!俺の憧れの先輩象が!部室と共に崩壊の危機!!

「残念でしたあ、今時流行りのツンデレさんが俺の服掴んどって動けないんですう」

………あれ?ほんとだ。いやいやなんで怒ってんのに服掴んでんの!?なんかもはやそれってツンデレとは違う気がする!!

「うるさい!黙れもやし!!ツンデレ呼ばわりと赤也抱きたい発言を取り消せ!んでさっきのこと俺に謝れ!」

「何言うとるんそっちこそ謝りんしゃい!」

「いやだ!絶対謝んねー!俺は謝んねーぞだって悪くないもん!」

あー、うーん、これはバカップルの痴話喧嘩の中でも実にめんどくさいことになるバージョンの予感。そして俺の脳内も一周のみならずぐるぐる回りまくって冷静になってきた。過去の俺の頑張り(と言う名の結果的に見れば無駄な努力)のうちのどれよりも頑張らないといけなそうな予感もする。予感で終われ。そもそも頑張る頑張らないの前に俺のメンタルは喧嘩のネタにされたことで結構ガタガタになってるんだ。あーどうしよう。つかまあこの2人もどうしようだけど、部長がすっげぇ どうにかしろよ みたいな目で俺をガン見してることが1番のどうしようだよ。マジ恐怖政治。マジ魔王様。あれ、魔王様も関わりたくないバカップルってすごくね?これだからリア充は。強い、強すぎるぜ。いや大丈夫、俺はまだ泣いてない。

「今回のは9割ブン太が悪いじゃろ、てか毎回ほぼブン太が悪いじゃろ!」

そんなやつと付き合ってる仁王先輩すげーよ。

「仁王じゃん!仁王が悪いじゃん!はああ?何言ってんの悪いの仁王だし!!」

そんな奴の告白オッケーした丸井先輩すげーよ。

「そんなん言うて謝ること覚えんとろくな大人にならんよ!」

「お前は俺の親かようぜぇ!」

どうしようどうしよう。けどまあ話題が俺から離れてよかった!それだけはまじでよかった。てかいつの間にかジャッカル先輩も柳生先輩も耐えれなくなって部室出てっちゃってるし、…………はあ!?柳さんまで!!ちょ、柳さんずるい!今データ収集にちょうどいいじゃん!て俺の悲痛な心の叫びが聞こえねぇってことくらい日頃馬鹿だ阿呆だワカメだと貶されてる俺でもわかる。けど叫ばずにはいられないだろこれは。

「俺の子供はこんなにひねくれた子になりませーん」

「お前が親なんて死んでもやだもんね!」

「だいたいな、あんくらいのことで怒る方がどうかしとるじゃろ」

「あんくらい?お前そんな軽く思ってたわけ?まじないわ」

お、なんか話が進展してきた。今回の喧嘩の原因は、難しく言うと『価値観の違い』って感じっすかねー。めんどくせ。

「やってしつこかったけえ」

「しつこかったらなんでもするの。しつこく誘われたらヤっちゃうの。それもしつこかったらどうすんのお前みたいに、お前のセックスみたいに!!」

だから先輩らのそうゆう?性事情的な?のは全く知りたくねえんだと何回言えばいいんだ。話の中心自体は俺から離れたはいいけど事態は悪化しているのですぞ!ってつぶやいたーに呟きたいくらいどんどん悪化してる。冷や汗なんかはもう流れきったのか少し前から出てこない。相変わらず背中には幸村部長からの どうにかしよろ な視線が突き刺さってるけど………って、そうだ。さすがにもう我らが部長様に頼ってもいいんじゃないか?これ以上こんなバカらしいことに部活時間を削るのも、練習試合を週末に控えた今の状態にはいただけないだろうし。うん、ここはやっぱ部長に、と俺は思いきって後ろを振り向いた。が。部長いねぇぇぇええええ!!!?いつ!?この何分かのいついなくなったの!?は?じゃあなんで視線感じて……あ、ヘアバンド!?ヘアバンドだけ置いてあるよ!?うっわあああああ!!なんかやだ!こんな部長見たくも知りたくもなかったちくしょう!!!

「ハァ…。そんなに俺が信じられんの」

「うん。最初っから今まで信じきったことなんて一度もない」

「……ほぅけ。なら別れよか」

「はあ?誰もそこまで言ってねぇじゃん」

と、部長のヘアバンドから視線事件(只今命名)は一先ずおいといて。そろそろまじで止めた方がいいよな…?別れるとか言ってるけどどっちも本心じゃないよな…!?恐ぇよ、3年恐ぇよぉ!!いつもリア充爆発しろとか言うけど、バカップルまじ迷惑とか言うけど、それでもこの二人が別れるくらいならそっちの方が全然いい。

よし、ならこのまま放っとくわけにはいかねーな。
………赤也、逝っきまーす!


「あの、」

「「なに」」

きゃぁぁあああ!!むりむりむりむりむりむり!!怖いから!ドス効かせた声とか丸井先輩の恐い行為ベスト3に入っちゃうくらい恐いんだからぁ!うちの喧嘩番長なめんなよマジで!てか仁王先輩のドス声初めて聞いたよなにその変わり様!ある意味一種のイリュージョンだよ!!顔綺麗だと怒ったときの表情の破壊力が一般人のそれを何倍も上回ってるよ!

「もーほら、仁王がんな声だすから赤也固まってんじゃん」

「人のこと言えんじゃろ」

がんばれ赤也、いけ赤也、声が震えないようにこれだけを気を付けて、

「な、何で喧嘩してんすか…?」

やべえやっぱちょっと震えた上に若干どもった。けど聞いた。俺聞けた超絶偉い。今日ご褒美にグリップテープ買っていこう!

「…こいつが女の子からクッキーみたいなやつ貰っててさ」

「やからあれはしつこかったけぇしょうがなくって言うたじゃろ」

「ふん!」

…………ん?……女の子?クッキー?それが喧嘩の原因?丸井先輩が怒ってる理由?………くだらねぇぇえええ!!!くだらなすぎてついついローマ字にしたくなるくらいくだらねえ!KUDARANE!!!みたいな!なんっだそのくっだらねぇ理由!!さすがバカップルだよ!どこまでもバカップルだわああもうほんとに馬鹿なんだなこの人ら!

「あー、…でもまあ丸井先輩もそこまで怒んなくてもいいんじゃないっすか?先輩だっていつも女子からお菓子とか貰ってるわけだし」

急に恐くなくなったよもう。バカバカしい。










...




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